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果てしなく続く空の下
1 :
誘惑
:05/20(日) 15:43:46
HOST:nthygo130241.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
俺はどうして生まれてきたのだろうか─?
─心無き人間─
そう呼ばれても構わない
だけど、俺はどうして生きているんだ──
居るだけで罪を呼ぶ俺を、人は何故造る─?
俺は……俺たちには、未来があるのか──?
2 :
誘惑
:05/20(日) 16:25:48
HOST:nthygo130241.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
時は西暦2572年。
機械技術が発達し、街には卵型の車が行き来する。
それは音声で動くといった物だった。
行き先を告げるだけでその場所まで運んでくれる。
もちろん運転はしなくてもいい。
こんな風に機械が日常的に役立つものへと変化し、人々は退屈な毎日を過ごしていた。
超高層ビルが立ち並ぶ街には、所々にロボットがいた。
その形式は様々で、丸い形の物から人間と区別のつかない性能なロボットまでいた。
中には裏会社で造られた人間そっくりなロボットもいる。
従来では考えられなかった物が続々と登場し、研究者は毎日汗を流した。
今では、研究者のお遊びと言っていい程、ろくな物を造ってばかりだ。
都心部から少し離れた街に、大きなマンションがあった。
そこは、隣に全国各地から観光客が集まるリゾートホテルがある。
だから、車の出入りが多く人々も多い。
そんなマンションの一角に一人の男が住んでいた。
年は大体17歳ぐらいだろうか、綺麗な顔立ちに整った髪が美しい。
一つひとつのパーツが彼の為にあるようなものだった。
一人暮らしをしている彼にとってこの部屋はかなり大きなものだった。
家賃8万2000円、高校生の彼には払えない額にも思える。
だが、彼はこのマンションにもう何年と住んでいた。
月が綺麗に輝く日、彼は何故か不吉な予感を抱いていた。
深夜零時を回った頃だった。
大きな音が彼の部屋に響いたのだ。
彼はベッドから起き上がると、辺りを見回した。
幸い、彼の部屋には何も無かった。
次に彼は部屋を出、リビングへと向かった。
そこで彼は、ベランダでうごめくモノを発見した。
彼は恐る恐る近づくとガラス戸をゆっくりと開けた。
そこには、黒い服に身を包み、背中から羽の生えた一人の男が倒れていた。
男の周りには純白の羽が散らばっていた。
見たところ、彼と同じ歳だろうか。
彼はしゃがみ込み、男をさすった。
「おい、どうした」
声をかけてみたが返事はない。
彼は戸惑い、仕方なく男を部屋に連れ込んだ。
運ぶ間、男は彼の背中にいた。
彼は思った。
体重が軽い、と。
同い年にしては軽すぎた。
身長は彼と同じぐらいだが、体重の差が余りにも違いすぎた。
ようやく彼は自分のベッドに降ろすと、男を置いて部屋を出た。
そして彼はリビングのソファで寝ることにした。
彼はなかなか寝付けず、あの男の事ばかり考えていた。
──あいつは一体何者なんだ。
──どうして俺はあんな奴を上げてしまったんだ。
様々な思いが巡る中、彼はようやく眠りについた。
3 :
誘惑
:05/21(月) 17:31:23
HOST:nthygo130241.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
柔らかな朝の陽射しが、彼を優しく包んだ。
目覚めるとソファの上で寝ていた。
何故こんな所で寝ているのだろうと、考えた。
結果、昨日見知らぬ男を家に上げた事を思い出した。
彼はソファから体を起こすと顔をさっと洗って副を着替えた。
そして、彼は自分の部屋へと向かう。
2回程ノックをしたが返事はなく、彼はそのまま部屋に入った。
そこには、昨日と同じ格好で寝ている男がいた。
純白の羽は生えたままで、そこら辺に散らばっている。
肩まであると思われる髪は、朝日に照らされキラキラと輝いていた。
彼は男に近づき声をかけてみる。
すると寝返りをうつ様に目を覚ました。
男は目を擦りながら体を起こした。
彼はその様子をじっと見つめる。
「よっ」と声をかけると、男は驚いた様に目を見開いた。
彼は、必死に笑顔を見せた。
恐がらなくていい、と言わんばかりに。
男は少し落ち着いたのか、体を彼の方に向けた。
「なぁ、こっち来いよ。飯、作ってやるから」
そう言って彼は立ち上がった。
男はコクリと頷くと、彼の後に着いた。
リビングに行くと、彼は男を席に座らせキッチンへと向かった。
「何がいい?」と聞くと、男は何も言わずただ首を横に振った。
仕方なく彼は、自分の出来る料理をした。
数分がすると、彼はキッチンから料理を持って出てきた。
その料理を男の前に差し出した。
料理と言っても男の作る物だ、こった料理など出来るはずがなかった。
かと言って何も出来ない訳じゃない。
男の定番、チャーハンを作った。
見た目は駄目だが、味は悪くないと彼は思う。
男は差し出されたスプーンを手にとって一口、口の中へと運んだ。
彼は男の反応を窺うように見つめた。
すると、小さな声だがはっきりと、
「おいしい…」
と答えた。
彼は嬉しくなり、「もっと食べろよ」と言った。
男は頷くと美味しそうに食べ始めた。
男は顔が白く、その肌に似合う漆黒の瞳が輝いていた。
一見、無口な男の様にも見えるが、どことなく優しい感じのオーラをかもし出している。
しかし気になるのが純白の羽だ。
一体、誰だったらこんな羽がつくのだろうか。
もしや、天使?
などと、よからぬ疑問を抱いてしまう。
だが、服装から考えると悪魔でも可笑しくはない様に思える。
彼は不思議な気持ちを抑えながら、目の前のチャーハンをガツガツと食べた。
4 :
誘惑
:05/21(月) 23:04:44
HOST:nthygo130241.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
現代では考えられぬ事を想像しながら、いつのまにやら皿の中は空っぽになっていた。
「腹いっぱい」とお腹を抱える彼は、すこし顔が赤くなった。
そして彼は体を前に出して、肘をついて顎を手の上にのせた。
ニヤニヤしながら彼は男に聞いた。
「名前、なんて言うの?」
男は大きな目を見開き、少し俯いて答えた。
「……ダリシュ・D・コンバット」
「俺は、後藤梓。女みたいな名だろ?」
梓は笑いながら言う。
ダリシュはというと、声は出さないが微笑む程度に笑った。
「あっ、笑った!」
梓は興奮気味にダリシュの顔を覗き込んだ。
ダリシュは驚き、体を仰け反る。
そんなダリシュを見て、梓は次々に質問をしていった。
「なぁ、ダリシュって事は外国人か?」
「違う」
「じゃあ、歳は?」
「多分、17」
「多分って……。住んでいたとこは?」
「分からない」
「……」
不可解な事があった。
年齢もそうだが、住んでいた所が分からないと言う。
梓は疑問を抱きながら、次の質問をした。
一番、聞きたかった事──
「なぁ、最後にその“羽”はなんだ?」
「……」
ダリシュは俯き黙った。
「いや、言えないなら無理して言わなくていいぜ」
小さいがダリシュは言った。
「俺は……造られた人間なんだ」
「えっ?」
その言葉に自分の耳を疑った。
いくら技術が発達したからといって、人間なんか造れるものなのか?
梓はもう一度聞きなおした。
「なんだって?」
「俺は、クローン人間、造られた人間≠ネんだ」
5 :
誘惑
:05/22(火) 16:43:11
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「俺の正式名称はGV−A3006。ここから遠く離れた街で造られた」
梓にとってクローン人間を見たのは初めてだった。
──これは人間≠ネのか?
──本当に造られたのか?
だが、見ての通りダリシュには羽が生えている。
普通に生まれてきた人間ならば、羽なんかつかないはず。
「俺は、第25回目の作品だ」
──作品?
「生まれた時から白衣の男達に囲まれていた。『素晴らしい。これは最高の出来だよ!』と、口々に話す男達ばかりだった」
梓は人間が造られるその様子を想像してみた。
だが、到底その様子は浮かばず、見たことのない梓にとってその場面は空想のものへと変化した。
そんな事はお構い無しにダリシュは続ける。
「そして与えられたのが、羽≠セった。成長段階の途中で何らかの白い羽を入れられた。で、ついたのがこれだ」
梓はダリシュの羽に目を向ける。
微かに動いたその羽はとても綺麗に見えた。
窓からの風は沈黙を運ぶ。
二人の前髪を揺らすと、スーッとどこかへ消えてしまう。
口を開いたのは梓だった。
「なぁ、その羽、しまえるか?」
「? しまえるが……」
「じゃあ、俺の服を貸してやるよ!」
そう言って梓は立ち上がり、ダリシュを自分の部屋へと連れ行った。
クローゼットから適当に服を引っ張り出し、ダリシュに合わせる。
その間にダリシュは羽を体内へと戻した。
ピッタリの服を見つけると、元々着ていたダリシュの服を脱がし、自分の服を着させた。
「おっ、似合うじゃん」
すぐさまダリシュの腕を掴んで、梓は玄関へと向かい部屋を出た。
6 :
誘惑
:05/23(水) 16:58:19
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マンションの目の前にあるタクシー乗り場で梓は、ダリシュに乗るように進めた。
ダリシュが乗ったのを確認すると、運転席に座っているロボットに声をかけた。
「すんません、オートシティまでお願いします」
そう言うと、ロボットはいかにも機械的な声で「かしこまりました」と言った。
そして車は走り出した。
卵形の車で音声で動くからといって、タクシーをただ乗りする訳にはいかない。
だから、タクシーには代金を支払ってもらう為、ロボットが乗っている。
でも、そのロボットは運転はしない。
あくまでも代金を受け取る為だけ。
梓は車内でこんな質問をしていた。
「ダリシュには兄弟とかいるのか?」
「いるわけないだろ。造られてんのにさ」
「それもそうだよな」
大きく口を開けて笑う梓を見て、ダリシュは笑顔になる。
ダリシュも少しずつだが、梓に心を開いてきている。
梓もダリシュの事を理解してきた。
「着きました。2456円になります」
梓はポケットから1枚のカードを取り出すと、ロボットに渡した。
ロボットはカードを受け取ると、機械の中へと入れた。
そのカードは預金通帳みたいな物で、そこからお金が引き出されるのだ。
機械がやるのと、人がやるとのでは、大分手間が違う。
その点、今の日本には小銭を持っている人は少ない。
「ダリシュ、行こうぜ」
そう言ってダリシュを誘う。
そこは大都市で人口がかなり多い。
高層ビルが立ち並ぶ街には、卵形の車が行き来する。
ビルの間を縫って、モノレールが通る。
ダリシュには初めての光景で少し興奮気味だった。
「ダリシュは、街に来るの初めてか?」
「ああ……」
未だ口を開けたままぽかんとしているダリシュに、梓は聞いた。
「俺は今の今まで、外に出た事がなかった。だから、外の様子とかも全く知らなかった」
空を見上げると、モノレールの線路が何本も見える。
空には優雅に飛び回る飛行機、わいわいと賑わう商店街。
人の行き来が一向に絶えない。
そんな街に来たのは、ダリシュにとって初めての事だった。
7 :
誘惑
:05/24(木) 16:31:13
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「な、なぁ、あ…梓? どこに行くんだ?」
ダリシュは梓を呼び聞いた。
梓は目を大きく開いて、二カッと笑った。
「ダリシュは学校に、行った事ないよな?」
「学校っていうのは、なんだ?」
「ん〜、それも知らないのか。学校っていうのは、勉強するトコさ。友達とかと話したりするトコ」
「?」
何を言っているのか分からないダリシュは、頭の上から『?』が見える。
「まぁ、俺に着いて来な。つっても最初は俺の親父に会ってもらう。俺の親父、学校の理事長だからさ」
そう言って、ダリシュと横に並んで歩いた。
ワックスで整えた髪を掻きながら、ダリシュを横目で見る。
──さっきこいつ、俺の事“梓”って呼んだよな。
そう、梓はさっきダリシュに名前で呼ばれた事が凄く嬉しくて、舞い上がっていたのだ。
そんな事は他所に、ダリシュは黙ったまま歩き続けた。
街を歩くと、痛いほどの視線が刺さる。
なぜかは分からない。
ダリシュもキョロキョロしている。
それは当然の事だろう。
美少年が二人並んで歩いているのだ。
注目を浴びるのも無理はない。
数分がして、目的の場所まで辿りついた。
そこは見上げるほどのビルで、頂上は見えない。
そこの自動扉を通って、梓とダリシュは中へと入って行った。
梓は身分証明書のカードを受付の人に見せると、すぐに父の所へ通してくれた。
父はビルの最上階にいる。
VIP専用エレベータに乗り、一気に最上階まで上がる。
あっという間の事だった。
すぐにエレベータの扉は開き、目の前に木製の両開きの扉が見えた。
梓はその扉の前にいくと、ノックをした。
すると、中から女の人の声がした。
扉を開くと、秘書の女の人が「あら、梓君」と言って中に入れてくれた。
入ったと同時に低い声が聞こえた。
「梓、どうした」
「編入手続きしてほしいんだ」
そう言うと、低い声の持ち主は梓達の方に振り向いた。
眼鏡をかけ、鼻の下に少し髭が生えている。
「ほう、それはお前の横にいる子か」
「ああ」
短く答えると、ダリシュは少し頭を下げた。
「その子は、どこの子だ」
「俺の友達だよ」
「そうか。明日には、お前の家に荷物を送る。後は、私の口座から必要な物を揃えなさい」
「悪いな」
そう言って立ち上がった梓を見て、ダリシュも立ち上がった。
そして、梓が出て行こうとした瞬間ダリシュは言った。
「ダリシュ・D・コンバットです。どうも、ありがとうございます」
深々と頭を下げると、ダリシュは部屋を出た。
8 :
誘惑
:05/26(土) 19:14:19
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「お前の親父さん、凄いあっさりと決めたな」
「ま〜、いつもの事だからな」
ビルを出て梓とダリシュは来た道を戻り始めた。
「お前の親父さん、何の仕事してるって?」
「正確には金融会社の社長さ。まぁ、暇つぶしに学校経営もやってるわけ。海外から各地の客が来てさ、ずっと話し込んでいる」
「ふ〜ん」
ダリシュはそう言うと考え込むように腕を組んだ。
──見知らぬ俺を受け入れてくれる?
ダリシュは初めてそうゆう人と触れ合った。
翌日になり、宅配便の人が梓のマンションへ荷物を届けた。
その中には、ダリシュに必要な物、制服や教材がたくさん入っていた。
「これ、俺がもらってもいいのか?」
「いいよ」
梓はニッコリと笑うとダリシュに制服を手渡した。
黒の学ラン。
漆黒の瞳、漆黒の髪の毛を持つダリシュには似合いすぎる程だった。
梓はダリシュを連れて、日常に必要な物を買い揃えた。
それほど、必要とする物はないが、普段着や勉強道具、その他もろもろの物を買い占めた。
ダリシュは申し訳なさそうに頭を下げた。
朝になり、ダリシュは黒い制服に身を包み部屋を出た。
既に制服を着て朝ごはんを作っている梓は、ダリシュの格好を見て驚いた。
「……似合っているか?」
「……」
「やっぱり変か!」
ダリシュは恥ずかしそうに梓に尋ねた。
「いや、すっげぇ似合ってる」
梓は興奮気味にダリシュに近寄り、まじまじと見つめた。
まるで、こんな人は見た事ないと言う様な顔で……。
「なぁ、飯食ったらさ早く学校へ行こうぜ! 皆にお前の姿を見せてやりたい」
梓はキッチンに戻ると、朝ごはんを持って出てきた。
席に着くなりいきなりガツガツと食べ始めた。
本当に早く行きたいらしい。
9 :
誘惑
:05/27(日) 22:47:28
HOST:nthygo130241.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
どうも、紹介が遅れてすみません。
私は誘惑[ユウワク]と言います。
何を書こうか迷った挙句、こんな小説になりました。
お暇でしたら読んで下さい。
それではお楽しみ下さい!
10 :
誘惑
:05/31(木) 19:33:29
HOST:nthygo058210.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ダリシュは梓に催促され、殆ど食べずに家を出てしまっていた。
歩いて10分の所にある、梓の通う学校──新星青海学園は、7割がた男子が占めている。
後の3割は女子である。
数少ない女子を狙って、男子達は激しい闘いを繰り返しているという。
まぁ、梓の場合女子に興味が無く、モテるのに彼女を作らない変わった性格なのだ。
「ダリシュ、お前は普通にしてればいいから」
「あ、あぁ」
ダリシュは息苦しそうに答える。
梓は横目でダリシュを見ると、笑い出した。
「?」
ダリシュは困った様に顔をしかめる。
そうしていると、梓がダリシュの首元に手を伸ばし、
「馬鹿、第一ボタンは開けててもいいんだよ」
と言ってダリシュの制服のボタンを開けた。
ダリシュは息苦しさから解放されたみたいに、深く心呼吸をした。
そうしているうちに、学校に着いてしまった。
着くや否やダリシュは女子に囲まれてしまった。
それを梓は遠目に見ている。
ダリシュが必死に助けを求めるが、梓はニヤニヤしたまま「俺、職員室に行ってくる」と言ってその場を後にしてしまった。
結局ダリシュは梓が来るまでの数分間、女子に囲まれ一歩も動けずにいた。
HRが始まる時刻になり、梓は教室、ダリシュは職員室へと向かった。
梓はその間、男子や女子にいろいろと質問されていた。
「なぁ、アイツ誰だよ」
「あの子、誰ー?」
「おい、梓。めちゃカッコよくねぇか?」
「ねぇねぇ、今度紹介してよ」
女子はウキウキ気分で梓に尋ねる。
もう狙っているのかもしれない……。
男子はそれを阻止する為に梓にダリシュの情報を貰おうとする。
やはり男子は数少ない女子を狙っているのだった。
先生が教室に入ってきて、女子は目を輝かせ、男子は守備体勢に入った。
「では、入りなさい」という先生の合図で、扉が開いた。
そこから、ダリシュが緊張した様子で入って来た。
それを梓は微笑みながら見ていた。
「今日から新しく入ったダリシュ・D・コンバット君だ。皆、仲良くするように」
すると、一人の女子が隣の女子に「外国の人?」と嬉しそうに聴いていた。
男子も「外国人かよ」と、こそこそと話していた。
「じゃあダリシュ君、自己紹介を」
「ダリシュ・D・コンバットです。よろしくお願いします」
「じゃあダリシュ君は後藤の隣な」
ダリシュは一番後ろの梓の席の隣に着いた。
「よろしく、ダリシュ」
「あぁ」
笑顔で言うとダリシュも笑顔で返してくれた。
11 :
誘惑
:06/02(土) 10:31:12
HOST:nthygo015142.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
学校が終わり、梓と一緒に家へと帰る道中、ダリシュは大きく溜息をついた。
「はぁ……」
「どうした? 疲れたか?」
「ちょっとな……」
それもそうだ。
ダリシュは1日中、休み時間になると女子に囲まれて質問攻めされていたのだ。
ようやく一人きりになれたかと思うと、今度は廊下などの場所で女子に出会ってしまうのだ。
帰り際には待ち伏せまでされていた。
梓に助けてもらい、今に至るという訳だ。
「俺、あんなに人に囲まれたの初めてだ……」
ダリシュは肩を落として歩く。
「そうか。それは置いといて、学校には慣れたか?」
「ああ。今気がついたんだが、学校って“教皇”の事なんだな」
「教皇?」
「ああ。教皇ってのは、俺がいた施設の中にあった部屋なんだ。そこではいろいろな事を教わった。ん〜、お前達の授業で言ったら、数学とか、英語とかだな。余り、こことは差はないよ。必要な事を教えてくれる」
「そうなんだ。教皇っていうのは何でそういう名前なんだ?」
「教えてくれる人が、偉い人なんだ。只、それだけだ」
「そうか」
ダリシュは言いながら遠い空を見上げる。
「俺達は造られた。だからその知識も必要になる。今、俺の頭の中には人造人間についての知識が全て詰まっている。俺達の置かれている現状、そして、俺達の使命。全て、人造人間に必要な事ばかりだ」
「使命、それは何だ?」
「今は言えない。その時がきたら必ず話す」
「そうか。明日も、女子に囲まれながら1日を過ごせよ!」
梓は口元を緩めて、嘲笑う様にダリシュをからかった。
そして、1日は終わった。
暗闇の中の広い部屋。
蝋燭の明かりがゆらゆらと揺れる。
それは人の影を怪しく映し出す。
「やっと見つけた……」
一人の人間が不敵に微笑む。
一枚の写真を手にし、にっこりと笑いながら見つめる。
「ダリシュ・D・コンバット……」
不敵な笑みを浮かべながら、唇の周りをそっと舌で舐め、目をギラギラと輝かせる。
「……殺す!」
12 :
誘惑
:06/02(土) 23:56:02
HOST:nthygo015142.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
翌日も、ダリシュは女子に囲まれた。
いつもながら、女子の目はキラキラ輝いている。
一人の女子はお菓子やお弁当等を持ってきて、ダリシュに食べさせようとした。
それをダリシュは丁寧に断り、そそくさと教室へと戻った。
「よっ、ダリシュ」
ニヤニヤしながら自分の席に座り、ダリシュの到着を待っていた梓が言った。
梓は、ダリシュが囲まれているのを知りつつ、一人で教室に来てしまったのだ。
ダリシュの助けてと言う声も聞こえたが、無視した。
「助けてくれたって、いいじゃないか」
ふてくされた様にダリシュは口を尖らせた。
「まぁ、怒るなって」
悪魔の様に笑うその顔が、ダリシュにとってとても腹立たしいものに思えた。
その時、梓の友達である諒がダリシュの傍にやってきた。
「ちーす、ダリシュ君」
気軽に声をかけると梓の所へと足早に行った。
ダリシュも自分の席に着くと、鞄を横に掛け、軽く諒に頭を下げた。
「おい、梓。ダリシュ君、めちゃ格好良いじゃん!」
「だろ? お前もそう思うだろ? 俺も、こんな綺麗な顔立ちをした奴を見るのは初めてだ」
嬉しそうに梓は言った。
そして諒がダリシュの方を向いて言った。
「俺、福田諒っていうんだ。よろしくな」
無邪気な笑顔が、彼の優しさをかもし出していた。
ダリシュもニッコリと笑い、言葉を返した。
そして午前の授業が始まった──
昼休みになり、梓とダリシュは食堂へと向かった。
その時、廊下の突き当たりを曲がった時だった。
「きゃっ!」
「わっ!」
ダリシュは誰かとぶつかってしまったのだ。
ぶつかった相手は女の子で、尻餅をついている。
ダリシュは慌てて彼女を引き上げようと手を伸ばした。
が、彼女は手を取ろうとはしなかった。
よく見ると、懸命に床を擦って何か探しているようだった。
「何か落としましたか?」
梓がダリシュの代わりに聴くと「眼鏡を落としてしまって……」と慌てていた。
ダリシュは辺りを見渡し、眼鏡が彼女の近くに落ちている事に気付き、眼鏡を拾って彼女に渡した。
彼女は眼鏡を受け取ると、それを顔につけた。
彼女は立ち上がるとダリシュに「ありがとう」と言った。
彼女はすらっとした出で立ちで、みつ編みにしたお下げがとても似合っていた。
というより、一般的に言う地味な女の子だった。
彼女はお礼を言うとすぐさま立ち去り、廊下を駆けて行く。
梓は「行こうぜ」と言ってダリシュと食堂へと歩き始めた。
13 :
誘惑
:06/03(日) 20:30:38
HOST:nthygo015142.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
午後の授業も終わり、ダリシュと梓は昨日と同じに帰っていく。
そんな時だった。
後ろからダリシュを呼ぶ声がしたのだ。
ダリシュは振り返ると、そこには助けた彼女が追い駆けてきたのだ。
彼女は息を切らしながら、はぁはぁ言っている。
ダリシュは「どうしたの?」と聴くと、彼女は息を整えてこう答えた。
「あの、もう一度だけお礼が言いたくて。迷惑かもしれないけど、ちゃんと言っておきたくて……」
彼女は几帳面な性格なのだろう。
あの時、逃げるように走って行って、自分で悔いている様だ。
「あの、助けてもらってありがとうございました。本当に助かりました。それに、眼鏡まで拾って頂き、本当にありがとうございました」
「いや、いいよ」
ダリシュは素直にその言葉を受け取った。
「俺も、ちゃんと前向いて歩いてなかったし。俺の方もごめん。怪我、してない?」
「大丈夫です」
「そう」
「それでは……」
彼女は振り返りもと来た道を辿り始めた。
それを大声で梓は言った。
「君、名前は!」
彼女は振り返ると大きく言った。
「大宮香奈子!」
大きく手を振り、彼女は帰って行った。
その日の夜の事だった。
梓とダリシュはキッチンで夕食の準備をしている時だった。
梓がこんな事を言ってきたのだ。
「遂にダリシュ君にも、恋の風が吹いてきましたねぇ」
ニヤニヤしながらダリシュの顔を覗き込む。
ダリシュは赤面し、梓を怒鳴りつけた。
「そんな訳ねぇだろ! まだ、逢って1日も経ってねぇんだぞ。そんな訳あるか!」
ダリシュは持っていた皿をぶんぶん振り回す。
梓はそれを避けながら、ダリシュをからかった。
それが面白くて梓は何度も冷やし立てた。
「まぁ、でも、あの子は何で俺にぶつからなかったんだろうな。俺の方が格好良いのにさ」
梓は真剣に言い出した。
「あの子、結構可愛いのに。あ〜、俺がダリシュの位置にいりゃ良かった」
ダリシュは溜息をつくと、
「その方が良かったかもな」
と、適当に言葉を返した。
梓とダリシュは目を合わせると、同時に吹き出し笑い出した。
出会って5日も経っていないのに、ここまで無邪気に笑えるものだろうか。
ダリシュにはいろいろ不安な事があるではないか。
梓にも、ダリシュのあの一言が気になっている。
だが、ダリシュがここまで笑えるのは梓のお陰ではないだろうか。
梓の無邪気さがダリシュにも伝わったのではないだろうか。
まだまだ二人には、分からない事があるだろう。
それでも、その疑問はいつか解決され、二人の仲をもっと埋める事が出来るのではないだろうか──
14 :
誘惑
:06/03(日) 21:53:29
HOST:nthygo015142.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「はぁはぁ……」
走っている。
“何か”から逃げている。
何かは分からない。
でも“何か”から逃げている……。
暗闇の中をひたすら走っている。
その先には一筋の光が見える。
只、それに向かって走っている。
後ろを振り返っても何もいない。
なのに走っている。
──何から?
──分からない。
只、走っている。
やっと光に近づいてきた。
絶え間なく流れる汗を手の甲で拭う。
その時だった。
誰かが俺の名前を呼んでいる。
とても小さな声で。
聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで。
『あずさ……』
誰だ、俺の名前を呼ぶのは──?
一体、誰なんだ!?
そんな時、後ろから黒い靄が見えた。
──あれは、何だ?
その瞬間、黒い靄が体を包んだ。
──飲み込まれる!
「梓っ!」
「うわっ!」
梓は飛び上がるように跳ね起きた。
傍に居たダリシュも驚いて身を引く。
梓は自分の服を見てみた。
ビッショリと汗をかいていた。
──夢、か……。
「どうしたんだ。汗、かきすぎじゃん」
「あ、あぁ。着替えてくるわ」
「うん。早くしろよ。お前、起きねぇんだから、ちょっと時間ヤバイかもよ。飯、作ってあるから」
ダリシュはそう言うと梓の部屋を出た。
梓は濡れたシャツを脱ぎ捨て、制服に着替える。
──あれは、夢だったのか?
──あの声、誰が……。
制服に着替えるとリビングに行き、ダリシュの作ってくれた朝ごはんを食べた。
「嫌な夢でも見たのか?」
ダリシュは少し心配した様に言う。
「ああ、少しな」
「どんな夢だった?」
「暗闇の中をひたすら走っていた。んで、その中に光が見えて、それに向かって走ってた。けど、途中で捕まった」
「捕まった?」
「ああ。なんだか知らないけど黒い靄みたいなものだった」
「ふ〜ん」
少しの間、沈黙が訪れた。
朝の澄んだ光が梓の家を照らす。
口を開いたのは、珍しくダリシュの方だった。
「早く、学校に行こうぜ」
「……そうだな」
梓は立ち上がり、皿をキッチンへと運んだ。
その際、ダリシュは机を布巾で拭いていた。
4月の柔らかな風が、緑に染まった木々を揺らす。
輝く太陽、穏やかな海、全てが平和に見える。
だが、そんな平和な世界が一気に崩れ去る──
梓とダリシュが学校に行っている間に街では、こんなニュースが流れていた。
『只今入りました情報によりますと、機関政府は、研究所で造られた人造人間を全て排除するという提案をしました。今現在確認されている、人造人間の数は一千万人を超えています。その為、政府は特別に人造人間削除隊を作り上げました』
街はどよめき、近くの人と話し合っている。
『今後、人造人間を見かけた人は、近くの交番か研究所に連絡して下さい。以上、臨時ニュースをお送りしました』
そんな事も知らずにダリシュは陽気に過ごしていた。
15 :
誘惑
:06/05(火) 20:49:38
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学園でもこの話はもちきりになり、皆が口々に言っているのが分かる。
そして、そのニュースのせいか、学園では急遽身体検査が行われた。
どうやら人造人間には人には無い“核”を体内に埋め込まれているようだ。
体を機械に通すとその“核”が反応し、接続しているコンピュータへと知らせるのだ。
かく言うダリシュにも入っているという。
ダリシュは小さく梓に耳打ちした。
「どうするんだ」
「俺に、任せとけ」
梓は右手の親指をピンと立てて自分の方を指した。
白い歯をきらりと光らせ、梓はそそくさと列に並んだ。
身体検査の順番は学年ごとに行われる。
最初は1年生から、男女別に検査していく。
結果、人造人間はいなかったらしい。
そして次は梓達の学年、2年生が検査を行う。
男女別に行うわけで最初に男子から検査された。
梓とダリシュは列の最後尾に並び、順番が来るのをただただ、待っていた。
そしてようやく梓の順番がきた。
梓は保健室に入る際、ダリシュに小さな声で言った。
「ちゃんとやれよ。俺が、なんとかしてやるから」
「あ、ああ」
ダリシュは弱気な声をあげた。
さかのぼる事数分前。
順番を待っている際、梓がダリシュにこう言ったのだ。
「いいか、俺が保健室に入ったら、すぐに逃げろ。家に帰っていから。鍵は持ってるよな? 後は、俺がなんとかしてやる」
「そんなことしていいのかよ」
ダリシュは不安気味に梓に尋ねてみた。
「大丈夫だって。なんたって俺は、この学園の後継ぎなんだぜ」
そして、今に至るのだ。
ダリシュは梓に言われた通り、梓の友達である諒に一言告げて、学校をあとにしたのだ。
その頃梓は、保健室の中にいる担任にダリシュが帰ったことを報告した。
担任は全く疑いもせず、梓の言葉を聞き入れた。
男子の身体測定は終わり、続いて女子に移った。
「次の人、入って〜」
先生の声が中から聞こえる。
一人の女子は睨むような目つきで先生を見た。
先生は一瞬怯んだ様にも見えた。
「先生、ちょっとお医者さんと話したいことがあるんで、席を外してもらえませんか?」
女子の睨む様な目に怯え、先生はそそくさと保健室を後にした。
二人きりになった保健室に静かな声が響いた。
「あんた、政府の医者だろ? なら、あたしが誰だか分かるよね」
そう言ってポケットから一枚の写真の入った紙を見せた。
それを見るなり医者は引きつった顔を見せた。
「あたしはね、人造人間削除隊(パニッシュ・ロー)の者なんだよ。身体検査なんてやってる暇ないんだよ。分かったかい?」
「あ、ああ。承知した」
そうして彼女は立ち上がり、保健室の扉を開けた。
「あんたも精々、頑張んなよ」
そう言い捨て、保健室を後にした。
保健室を出た彼女を待っていたのは、彼女の友達だった。
「も〜、香奈子おそ〜い」
「ごめんね」
そう、彼女は──大宮香奈子は、人造人間削除隊の一員だったのだ。
かつては、ダリシュが助けてあげた人間。
そして、ダリシュは人造人間。
二人の間に、徒ならぬ空気が流れ込む──
16 :
誘惑
:06/06(水) 16:43:00
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なんとか学校から逃げられたダリシュは、梓の家で一息ついていた。
──本当に大丈夫かよ……。
徒ならぬ不安がダリシュの中に込み上げる。
──まぁ、梓なら何とかしてくれるだろうけど。
ダリシュはソファに深々と座ると、テレビのリモコンを手に取り、スイッチを入れた。
そこで信じ難い出来事が始まっていた。
『只今、全国の人造人間を必死に機関政府は追っています。その中でも人造人間削除隊は、次々に人造人間達を回収し、政府へと引き渡しをしています。え〜、今回収された人造人間は500万を超えました』
ダリシュはそのニュースを一滴も聞き漏らす事のないように聞き入っていた。
『人造人間には、一人に対して一つの“武器”を持っています。それは何なのか分かりませんが、人造人間削除隊のメンバーは難なく倒しているようです。皆様も、機関政府へお力をお貸しください』
ダリシュは目を瞠った。
──人造人間削除隊? なんだよ、それ。
ダリシュは動揺を隠し切れない。
──俺は、殺されるのか?
ダリシュの目が血走る。
ダリシュは急いで、学校へと向かった。
学校につくなりダリシュは梓の教室へと駆け上がる。
今学校は授業の最中だ。
そんな事は露知らず、ダリシュは飛び込んだ。
周りの生徒は驚いていたが、ダリシュはお構いなしに進んでいく。
これには流石に梓も驚いている。
「お、おい。どうしたんだよ」
無言のままダリシュは梓の腕を掴むとそのまま引っ張りだした。
梓が立ち上がった衝撃に、椅子がガタンと倒れた。
そしてそのまま、ダリシュと梓は教室を出て行った。
皆は驚いて口を開けたままだった。
疾風の如く起こった事に先生も目を見開いたままだった。
「どうしたんだよ!」
梓は立ち止まると、ダリシュの手を振り解いた。
ダリシュは力無く立ち止まる。
「どうしたんだよ、急に」
気がつけば二人は屋上に居た。
朝日がさんさんと照らし出す。
ダリシュは小さく呟く様な声で言った。
「俺、回収されるかもしれねぇ……」
「はぁ?」
梓には意味が分からなかった。
「どういう意味だよ」
「機関政府が俺達を回収しようとしている」
「俺達って……人造人間の事か?」
「ああ。何が原因か知らないけど、今日を以って人造人間は回収されるんだ。その為に、“人造人間削除隊”が動いているんだ」
訳の分からないまま、梓は突っ立っていた。
「ちょ、意味分かんね。じゃあ、今日の身体検査もそれを調べる為だったのか? 人造人間には核があるって、それで、人造人間を回収すのか?」
「ああ、そうだろ。多分、あの医者も政府の者だと思う」
「……」
沈黙が訪れた。
雲行きが怪しくなってきた。
今まで晴れていたのに、急に曇りだした。
真っ黒な雲が明るく輝く太陽を隠す。
その時、突然屋上のドアが開いた。
「!」
二人は同時にそこを見た。
そこには一人の少女が立っていた。
「やっと気付いたのかい。ダリシュ・D・コンバット」
舌を出して唇の周りを舐める。
「いや、こちらの名で呼ぼうか。GV−A3006」
その瞬間、激しい音と共に雷が落ちた。
雨がぽつぽつと降り始めた。
ダリシュは小さく口を開いた。
「お前は……大宮香奈子!」
香奈子は不敵に笑うと、
「人の世に紛れ込んだ堕天使。今日を以って始末する」
と、威勢のある声で言い切った。
激しい轟音を轟かせながら、雨は止まず振り続ける。
そしてここから、ダリシュ達に悲劇が訪れる──
17 :
誘惑
:06/08(金) 18:40:18
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「覚悟しなっ!」
そう言うと、香奈子は突然宙に浮きダリシュに襲い掛かる。
いつの間にか出したのかは分からないが、香奈子の手には長さ60センチぐらいの剣が握られていた。
ダリシュも自らあの純白の羽を出した。
そして雨の中、二人の人間が宙を舞う。
「はあっ!」
怒声と共に、剣を大きく振りかぶる。
ダリシュはそれを見事に避けた。
梓は雨の雫が顔に当たる中、必死に上を見た。
「なぜ、お前は俺を狙う」
「それはお前が人造人間だからだよ!」
「!」
香奈子は剣を振り回し、ダリシュを傷つけようと頑張っている。
だが、なかなか当たらず少し目が血走っている。
ダリシュは必死に避けようと逃げ回っている。
力を使いなさい。
何所からとも無く聞こえてくる謎の声。
それはダリシュにだけ聴こえているのか、香奈子の顔を見ると何も変わらず必死に剣を振っている。
──力? 力ってなんだ?
あなたのその羽で相手を倒しなさい。
──俺の羽で?
その声は屈託の無い凛とした、透き通った男の人の声だった。
私の言う通りにしなさい。
ダリシュは訳が分からないまま、謎の声に従った。
「貴様、逃げてばかりいて……」
「ダリシュ! 逃げてないで戦えよ」
下から梓の声が聞こえる。
ダリシュは香奈子と距離をおき、純白の羽を思い切り広げた。
香奈子はその様子に少し戸惑う。
「チャクラム!」
そう言うと、白い羽が矢の様に飛び出した。
それは香奈子の方へと向かっていく。
「なにっ!?」
香奈子は驚き、その瞬間にはもう羽の矢が目の前に迫っていた。
下から見ていた梓は、白い羽が何百本と香奈子に向かっていくのをただただ見ていた。
「うあぁぁぁぁっ!」
卑劣な声を出し、叫ぶ香奈子。
その身には少し赤い血が滲んでいる。
羽の矢が終わると、香奈子はそのまま下へと落下した。
ダリシュは後を追うが、香奈子の方が落ちるのは早かった。
嫌な音がし、ぐったりとした香奈子が現れた。
梓は足で香奈子を突っついていた。
だが、反応は無かった。
手を口元にかざしてみると息はまだあるようだ。
その瞬間、香奈子の目が開きすかさずダリシュに襲い掛かる。
だが、頭を強く打ったのか足はフラフラしている。
その場で香奈子は膝をついてしまった。
「くそっ……お前は今まで、そんな能力持ってなかったのに! 誰に習った!」
「知らない」
「てめぇ!」
『やめろ。見っとも無いぞ。もういいから、帰って来い』
どこからか聞こえる声。
ダリシュの聞いた声とは違い、少し低い男らしい声だった。
「でもよっ!」
『いいから。帰って来い』
「……はい」
香奈子はそう言うと再び宙に舞い、雨空の中空を駆けて行った。
何が起こったのか分からない二人は呆然とその場に立ち尽くしていた。
18 :
誘惑
:06/10(日) 23:23:00
HOST:nthygo015142.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
香奈子が去った後の屋上は、まるで嵐が通り過ぎたかの様な無残な跡を残していた。
と言っても、傷つけたのはダリシュである。
香奈子が付けた傷と言えば、ほんの少し地面に切れ目があるくらいだ。
梓はダリシュの肩をポンと叩いた。
そして頷くと、二人は屋上を後にした。
帰ってからも二人は少しの間、無言の時間(トキ)を過ごしていた。
何を話せばいいのか、分からない。
何も知らない梓にとっては、到底、何から話をすればいいのかさえ分からなくなっていた。
肝心のダリシュでさえ、目をキョロキョロさせながら、挙動不審の態度をとっている。
「あの、さ……」
「ん?」
「俺も、よく分からないんだけど、帰ってさニュース見たらいろいろやっててさ……」
話を遮るように梓は尋ねた。
その目は、溝川の濁った様な目をしていた。
「その“いろいろ”って何だよ」
「俺もよく分からない。只、政府の奴らが俺達(人造人間)を捕まえて、殺そうとしている事だけ」
「何でその政府はお前達を殺すんだ?」
「それが分からないんだ。俺にも、さっぱり……。人造人間に必要な事は全部、教えてもらったつもりだ。だけど、それでも俺達の知らない事があった」
「……」
その話を機に、二人は黙り込んでしまった。
梓は他にもいろいろと聞きたい事があっただろう。
人造人間が捕まえられ、殺される事──
人造人間に任された“使命”の事──
そして大宮香奈子が、なぜ人造人間削除隊にいるのか──
数えきれない程の質問が、梓の頭の中で回っている。
だけど梓はそれを聴こうとはしなかった。
どうせ言ってもダリシュに「その時がきたら」と、言い返されるのが目に見えていたのだ。
ダリシュにだって分からない事ぐらいある。
人造人間といっても“完璧”ではないのだから。
いくら造られたからって全ての“知識”がある訳じゃない。
それは梓はよく知っている。
ダリシュもいろいろ考えているのだろう。
梓に話す、その時が来るまで──
いつになるか分からない、だけど、いつかきっと話す時が来る。
それをダリシュは静かに待っているのだ。
幕は上がった。
終幕に向かい世界は動き出す。
俺達は、その終末も知らされぬまま、踊り(タタカイ)つづけるのだ。
──それが悲劇の序曲(ハジマリ)とも知らずに──
19 :
ハァ子
:06/11(月) 18:14:17
HOST:p9396d1.hyognt01.ap.so-net.ne.jp
いはああ
こんちゃああ
まだ全部読んでないけど
おもろいぜ(^ω^)
まぁ一応あげておくぜb
これからも頑張っちゃってよお(;ω;`)
20 :
誘惑
:06/11(月) 22:44:06
HOST:nthygo125175.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*ハァ子さん
あげてくれてありがd!
頑張りますよ!!
21 :
誘惑
:06/12(火) 19:51:51
HOST:nthygo125175.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
暗闇の中に一筋の明かりが灯される。
そこは硬い壁で覆われた広い広いホールだった。
何もないそこは、些細な音でもすぐに反響する。
そんな中に香奈子はいた。
肩膝をつき、体勢を低くし、頭を垂れていた。
「悪い……しくった」
香奈子の声が暗いホールに響く。
「いいが、お前はこれからどうする」
そしてもう一人の声がする。
少し怒りに満ちた重い声だった。
「あたしは、まだ戦る」
「そうか…。だが、決してダリシュだけは殺すな。分かったか」
「ああ」
香奈子は頷くとそのホールを後にした。
月が欠ける。
それは何かを示しているような、怪しい光を放っていた。
ダリシュは部屋から見える月を眺めていた。
「……」
──俺はどうしたらいいんだろう。戦えばいいのだろうか。
ダリシュはこれからの事を考えていた。
何をすればいいのか。
どうすれば戦わずに済むのだろうか。
──誰か答えてくれ……。
『お前は今まで、そんな能力持ってなかったのに!』
香奈子の言葉が脳裏をよぎる。
──今まで? 能力?
何を言っているのか意味が分からなかった。
──あいつは俺を知っているのか?
自分の知らないところでいろいろと話されている。
それがどんな内容なのかは分からない。
だけど自分に秘めたる力があることは分かった。
途轍もなく“強力な能力(チカラ)”があることを──
──あの声は何だったのだろう。
又もや分からない事が浮かび上がったが、疲れているせいかそれを考える間も無く、深い眠りについてしまった。
──俺はあいつに何をしたらいいんだ?
梓も寝付けずにいた。
──何の取り得もない俺に、何が出来るんだろう。
せめてダリシュを助けようと努力しようとしている。
自分には何も出来ないが、何か手伝う事があればそれをしたい。
そんな想いが梓の中を駆け巡る。
「……綺麗な月だ」
梓はそう呟くと布団の中に潜り込んだ。
22 :
サヤコ
:06/15(金) 17:51:41
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげ!
密かに読んでました('-^*)/
めちゃ好きです♪(*^ ・^)ノ⌒☆
23 :
誘惑
:06/15(金) 21:18:40
HOST:nthygo125175.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさん
あげ、ありがとうございます。
密かに読んでいただいで感謝します。
好きと言ってもらえて本当に嬉しいです。
24 :
ハァ子
:06/17(日) 18:35:06
HOST:p9396d1.hyognt01.ap.so-net.ne.jp
誘惑ちゃん!
めっちゃ上手くない!?
流石アレだけ本読んでるだけあるね★
25 :
ロン
:06/18(月) 21:39:03
HOST:d202051047073.cable.ogaki-tv.ne.jp
ねくすとw
26 :
誘惑
:06/18(月) 23:07:52
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*ハァ子さん
上手いですか!?
私はまだまだ未熟者です……ハイ...
まぁ、本は好きですから……☆
ありがとうございます!
*ロンさん
ねくすと、ありがとうございます!
これからも継続させて頂きます。
27 :
誘惑
:06/19(火) 00:09:56
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
翌日、街はいつもと違う静けさに包まれていた。
いつもは朝でも十分に賑わう街が、今日は人ひとり外に出ていなかった。
梓とダリシュもその怪しさに少しばかり不安の気持ちを抱く。
街を歩いていても、小鳥の囀りさえ聞こえない、犬一匹も通りはしなかった。
──何が起こったんだ?
今、街を歩いているのは二人だけだった。
それは、とても寂しさを醸し出す様な冷え切った空気だった。
息が詰まる程の沈黙。
それは静かに破られた。
「やぁ、お二人さん、こんにちわ〜」
突然、目の前に現れた謎の男が梓達の声をかける。
「……あの、どちら様でしょうか」
梓は警戒しながら尋ねる。
昨日、あんな事があったのだ、誰にでも気安くは話せなくなった。
「いや、俺は怪しいもんやないって……って言っても、説得力ないんやけどなぁ」
少しなまりのある言葉で喋る男。
ダリシュはいつでも戦える様に羽を出す準備をした。
「まぁ、俺はこういうもんでな」
そう言うと男は懐の中から一枚の紙を取り出した。
「人造人間削除対の一人、服部十(ミツル)言います。どうぞ、よろしゅ〜」
その瞬間、服部十は右手を大空高く掲げた。
すると、その指先に周りからたくさんの光が集まってきた。
その光は吸い込まれる様に、指の中へと消えていく。
何が起こっているのか分からない二人はただただ立ち尽くし、ボーっとその光景を見ていた。
服部十が右手を下ろすと、その手を自分の胸元へと引き寄せた。
「あんたら、周りが言う程強そ〜には見えへんなぁ」
ニッと笑うと、服部十はその右手を開いた。
そこから飛び出てきたのは大量の炎だった。
赤く燃え、煌きながら梓達に向かってくる。
ダリシュは素早く羽を出すと、梓を抱え大空へと羽ばたいた。
「悪いな」
「別にいい」
地上に残る服部十は天を仰ぎ見る様に梓達を見る。
「こりゃ、驚いた。羽があるんかぁ。せやけど……」
服部十はもう一度、拳を作り今度は空に突き出した。
梓とダリシュは驚きのあまり目を丸くする。
──まさか!
「俺の炎かて、負けてへんで!」
そう言うなりいきなり炎を発射した。
流石にこれは交わしきれないダリシュは急いで羽を羽ばたかせる。
その隙にも炎の距離は縮まっていく。
──やばい!!
二人がそう思った途端、炎は目の前で消えた。
「また、あんたかぁ。もうええかげんにせぇや」
二人の目の前には大宮香奈子がいた。
香奈子が助けてくれたのだろうか。
いや、まだ分からない。
自分が殺したいのかもしれない。
「うるさいっ! この二人はまだ殺さないのよ! あんたなんかに殺されるわけにはいかないの!」
何を言っているのか分からないが、多分、助けてくれたのだろう。
それは信じていいのだろうか?
「ダリシュ、今のうちだ!」
梓が大声でダリシュに言った。
ダリシュはビクリとすると、羽を羽ばたかせ空の彼方へと消えていった。
「……あんたのせぇやからな。折角の殺す機会(チャンス)やったのに」
「……まだあんたには殺させない。いつでも邪魔をしてあげる」
香奈子は踵を返し、静かな街へと姿を消した。
一人残された服部十は空を見上げ呟いた。
「どんな手段(テ)使っても、殺したぁなってきた」
28 :
誘惑
:06/19(火) 16:51:12
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「はぁはぁ……」
梓とダリシュはとあるビルの屋上にいた。
必死に逃げてきたダリシュは少し疲れたみたいだ。
そりゃ、自分よりも体重が重い梓を運んだのだ、無理はない。
「大丈夫か」
「ああ。心配ない」
ダリシュは息を整え、羽をしまった。
梓は屋上に付けられている柵に手を置き、辺りを見回した。
「どうしてこう、ダリシュの命を奪う奴が増えてるんだ」
「……俺が造られたから」
「……」
梓はダリシュを見る。
──そうじゃない。そうじゃないんだ!
言いたい。
けど、言葉が喉の奥で引っ掛かり上手く出てきてくれない。
ダリシュ、聞こえますか。
耳の奥でまたあの声がする。
一体、何所から聞こえてくるんだろう。
辺りをキョロキョロとする。
梓はその様子を不思議に思い、ダリシュに話し掛ける。
「どうしたんだよ」
「……声が聞こえる。あの時の声が……!」
「声?」
今から言う所に来なさい。貴方を助けてあげましょう。
「それは何所だ!」
オートシティの海岸沿いにある、黒い教会。そこに来なさい。
そう言うと、声は聞こえなくなった。
──俺を助けてくれる。
声の正体は不明だが、なぜかその声の所に行けば希望が見えてくる気がした。
「梓、行こう!」
「おい! 行くって、ちょっ待てって!」
29 :
誘惑
:06/19(火) 19:17:52
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
梓はダリシュに捕まったまま、大空に浮いている。
ダリシュは走るより、飛んだ方が速いと言って、梓を抱えて飛んでいるのだ。
梓は何も聴かされぬまま、身を預けた。
「ダリシュ、何所に行くんだよ」
「オートシティの海岸沿い。そこに行けば何か分かるかもしれない」
ダリシュは羽を懸命に動かしスピードを上げていく。
その間、梓は冷たい空気に刺されながら、前方を見ていた。
数分がすると海岸が見えてきた。
今の季節、水は冷たいだろう。
波と波がぶつかりあい、白い泡を作る。
ダリシュは海岸に降りると梓を降ろした。
「ありがと」
「いいよ」
梓とダリシュは海岸沿いを歩き始めた。
踏みしめる砂の音と、波の音しか聞こえない。
少し歩くと、前方に黒い建物が見えてきた。
──あれだ!
ダリシュは気付かぬうちに早足になっていた。
梓もそれに追いつくように早足になる。
そこは、ひっそりとたたずみ海岸に建つ教会。
全てが黒一色で塗られている。
正面に大きな両開きの扉があり、屋根の上には黒に染められた十字架がある。
とても陰気な感じのする建物だった。
ダリシュは扉の前に立つと、息を呑んだ。
「誰かいませんか」
中から返事はなく、変わりに勝手に扉が開いたのだ。
まるで、入ってと言わんばかりに。
卑屈な音をたて開く扉に、梓とダリシュは身を縮める。
「入ろう」
梓に指図され、ダリシュは扉の中へ入っていく。
梓もその後に着いた。
中に入ると長椅子がずらりと並んでいた。
真正面にはステンレスガラスで作られた色とりどりの花瓶。
それだけが異様に目立っている。
「誰かいませんか」
ダリシュは大きな声で叫んでみた。
だが、やはり返事はなくダリシュの声だけが虚しく響いた。
「おい、誰かいないのか!」
今度は梓が言ってみたが、これも反応なし。
「ここに本当に人がいるのか?」
梓はダリシュに問い掛けた。
ダリシュは下を向き、首を横に振った。
「私ならいますよ」
突然後ろから声をかけられ、二人は思わず声をあげる。
「誰だ!」
「誰だとは失礼な。私はここの神父ですよ」
そう言って闇から出てきたのは、若い男だった。
黒い装束に身を包み、腰まであるだろう長い髪を揺らして出てきた。
その顔はまるで天使の様に優しかった。
「ダリシュ君ですね。さ、お座り下さい」
神父はそう言うと長椅子の一つを指さした。
30 :
サヤコ
:06/22(金) 20:12:11
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげま〜すヽ(゜▽、゜)ノ
31 :
誘惑
:06/24(日) 16:43:11
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさま
あげあいがとうございます!
頑張ります!!
32 :
誘惑
:06/25(月) 23:31:10
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ダリシュは長椅子に座ると、後から梓もダリシュの横へと座った。
神父はダリシュの前に立つと、微笑みながら言う。
「君がダリシュ君だね? やはり、実物は凄い」
何を言うかと思えば、訳の分からぬ事を言う。
ダリシュは怪訝に顔をしかめる。
「あっ、自己紹介が遅れたね。私は、ここの神父、メルス・オート。私も君と同じ人造人間だよ」
それを聞いた瞬間、ダリシュは目を大きく開いた。
「君の噂は常々聞いているよ。まぁ、正確には鳥が運んでくるのだが」
神父は右へ左へ歩きながら話し始める。
「君は確か、GV−A3006だよね。君はどこまで教わった?」
「……どこって教皇ですか?」
「そうだよ」
ダリシュは少し俯きその後梓の方を見た。
それを見た神父は、なるほどという顔をして梓に笑顔で話し掛けた。
「君はダリシュ君の友達かい? 悪いが席を外してくれないか。少し二人きりで話したい事があるんだ」
梓はダリシュを見ると、ダリシュは小さく頷いた。
「じゃあ終わったら呼んで下さい」
「分かりました」
梓は長椅子から腰を上げると、両開きの扉まで歩いた。
それでは、と言うと梓は教会を出て行った。
「さて、聞かせてくれないか」
「……はい」
そしてダリシュは、教皇で教わった事を全て話した。
自分がどうやって造られたのか、自分の使命は何なのか。
教わった事を一つひとつ話していった。
その時の神父は親身になって聴いてくれた。
話が終わると神父は静かに口を開いた。
「なるほど……君はまだ重要な事を知らない様だ」
「知らない事?」
──確か人造人間は生まれてから全ての事を教わるはずだ。そうだ。教皇の先生だって言ってたじゃないか。
「それは、何ですか?」
「今は言えない。その時が来ればいずれ分かるだろう。その時は私がまた教えてあげよう」
「……」
「話は終わりました。彼を余り待たせてはいけません。さあ、お帰り下さい」
神父はダリシュに帰るよう促した。
ダリシュは立ち上がると扉へと重い足を運んだ。
「また、相談があればここに来て下さい。私はいつでもここにいますから」
「はい」
ダリシュは扉を開けると、教会の壁にもたれて眠っている梓の元へと行った。
ダリシュは梓を起こし、神父に挨拶をし教会を後にした。
帰りに梓はダリシュに何も聞かなかった。
何か訳ありなのだろうと、彼なりに気使いをしたのだ。
そうしないと、何故だか分からないけれど、ダリシュが壊れてしまいそうな気がしたのだ。
本能のままに彼はそう思ったのだ。
33 :
誘惑
:06/29(金) 18:49:58
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その日の夜は何も話さずに二人とも自分の部屋へと篭った。
話す気が無いのか、ダリシュは疲れきった顔をしていた。
梓が夕飯、食べるかと聞いても何も言わず只、首を横に振るだけだった。
梓もそれを見てか何も食べなかった。
──あの時、俺はどんな顔をしていた?
ダリシュはベッドに座ると、膝を抱え頭を足につけていた。
──折角、梓が飯を作ろうかと笑顔で言ってくれたのに。なんで俺はそれに答えてやれなかったんだろう。
ダリシュは自分を責める言葉を、次々に頭に浮かばす。
──梓は、俺を嫌いになるだろうか。本当の事を知れば、あいつは俺の事を……。
そんな事を考えていると、ドアがノックされ梓の声が聞こえた。
「ダリシュ、ちょっといいか。お客さんだ」
──客? 俺に?
ダリシュは不思議に思いながらも部屋を出、梓に尋ねた。
「客って誰?」
「分かんねぇ。でも、お前の知り合いだって」
「……知り合い?」
──知り合いなど俺にはいないはずだが……。
ダリシュは梓の後をひょこひょこと着いていった。
梓が玄関の扉を開けると、そこには真っ白なコートを羽織った、真っ白なニットを着、真っ白なズボンを履いた男の子が立っていた。
髪は少し茶色混じりで肩まである。
とても季節違いの服を着ていた。
まるで遠い北の国からやってきたみたいだった。
「夜分遅くにすみません。今日、こちらに引っ越してきた架衣瑠(カイル)です。どうぞ、つまらない物ですが」
そう言って男の子は小さな紙袋を差し出した。
歳はやはり梓やダリシュと同じぐらいだろうか。
だが、身なりからして相手の方が年上の様にも見える。
「ど、どうも」
梓は遠慮なくその紙袋を受け取った。
そんな梓を横目に見ながらダリシュは目の前の男の子に目をやった。
男の子はダリシュと目を合わせるとすぐに逸らしてしまった。
「それでは……」
男の子は軽く会釈すると隣の部屋へと戻っていった。
梓は扉を閉めると、梓を睨みつけるダリシュを見た。
「知り合いって言ったのはどこのどいつだったかな〜?」
ダリシュは梓に一歩一歩詰め寄る。
それに対し梓も一歩一歩後づさる。
「し、仕方ねぇだろ! あいつが知り合いって言ったんだから!」
「そんな事はどうでもいい。俺には元々知り合いなんていねぇんだよ」
「なら最初に言えよ!」
「なんだと〜!」
ダリシュは梓の首元を締め上げた。
「この、野郎! くすぐったいんだよ!」
「あはははっ!」
ダリシュの八重歯がきらりと光った。
34 :
誘惑
:06/30(土) 20:54:58
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
次の日は、朝から大粒の雨が降っていた。
梓はベッドから起き上がると、カーテンを開け薄暗い外を眺めた。
──なんか嫌な感じがする。
「おはよう」
ダリシュが先に起き、朝食の準備をしていた。
梓はそれに対し美味そう、と呟くと椅子に座った。
今朝ダリシュが作ったのはなんとも美味しそうな、日本の定番料理『焼き魚定食』を作ったのだ。
梓の腕とは数段違う。
「はぁ〜、今日は気分が乗らねぇ」
「そうかよ」
ダリシュは自分で作った料理を口に運びながら、適当に答えた。
そんなダリシュに梓は口を尖らせ、ちょぼちょぼと料理を口に運んだ。
支度をし終え、梓とダリシュは学校に行く為部屋を出た。
それと同時に隣の架衣瑠も出てきた。
よく見れば梓達の学校の制服を着ていた。
「おはようございます……」
架衣瑠は丁寧に挨拶をすると歩き始めた。
それを見た梓はおもむろに手を上げ、前を歩く架衣瑠に大声を張り上げた。
「なあ! 青海学園に行くんだろ? だったらさ、一緒に行こうぜ」
突然声をかけられ振り向いた架衣瑠に少し戸惑いの表情が浮かぶ。
「俺たち青海学園の生徒なんだ。道、案内してやるよ」
架衣瑠は少し躊躇ったが間をおいて、
「……お願いします」
と小さく言ったのだ。
それを聞いた梓は駆け足で架衣瑠の傍へと行った。
架衣瑠の傍に行った梓はダリシュを手招きしている。
ダリシュは溜息をつくと、梓と架衣瑠の元へと駆け寄った。
道中、梓はいろいろと架衣瑠に聞いていた。
何所から来たのかとか、何が好きなのかとか、その他もろもろとウザイ程聞いていた。
そんな梓に対し、鬱陶しく思わず丁寧に言葉を返す架衣瑠に、ダリシュは尊敬の眼差しをおくった。
35 :
夏華
:07/01(日) 10:11:28
HOST:ser357666003579924
未熟ながら評価させていただきました!
よければ雑談の評価スレを見てください。
36 :
誘惑
:07/01(日) 16:11:59
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*夏華さま
評価していただきありがとうございます。
今後、評価して下さった事を注意しながら書いていきたいと思います!
37 :
誘惑
:07/03(火) 16:50:54
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
それからというもの、三人は学園に着くまでの間、一言も喋らなかった。
というのも、梓の話題が尽きてしまったのだ。
それからはなんとも気まずい沈黙が続いた。
地面に落ちる雨の音だけが虚しげに響いた。
今年に入って二人目の転校生に、皆は内心ワクワクしていた。
一体どんな人が来るのだろう、格好いい人かな、可愛い子かな。
今尚続く、ダリシュへのラブコール。
そんな事が続いていても、やがてそれは音も無く消えてしまう。
皆、新しいものへと目を移すのだ。
女子はともかく新しい転校生に胸を弾ませる。
男子はというと「女! 女!」と口を揃えてコールしている。
人それぞれ個性があっていいと思うが、それでも少しは静かにしていて欲しい。
そうつくづく思うダリシュだった。
特に人に興味を持たないダリシュは机に本を広げ、一人静かに読書をしていた。
それを梓ははやし立てる様に話し掛ける。
ダリシュはうんざりした様に梓の言葉を無視した。
HRが始まると先生が入ってきた。
と同時に架衣瑠も入ってきた。
このクラス二人目の転校生だ。
「もう一人新しい友達が来ました。黄泉架衣瑠君だ。仲良くするように」
先生はそう言うと架衣瑠に自己紹介するように促した。
「黄泉架衣瑠です。宜しくお願いします」
架衣瑠は軽く頭を下げると、先生に指示された席へと移動した。
流石の女子も今度ばかりは興奮していた。
架衣瑠の可愛さに母性本能を擽られる女子が圧倒的にいた。
一方の男子は二人目の男に少し落胆していた。
というより、諦めた表情をしていた。
その噂は全校に知れ渡り、梓達のクラスは1〜3年の女生徒が押し寄せて来た。
架衣瑠の周りには女子が群がり、その中心で架衣瑠はおどけた顔をしていた。
ダリシュの周りはというと、最初あれだけ来ていた女子も皆架衣瑠の方に行き、代わりに男達が集まった。
「可哀想なダリシュ。女なんてあんなモンだよ」
横から諒がダリシュに言った。
ダリシュは何も言わず、只架衣瑠の方を見ていた。
38 :
誘惑
:07/05(木) 13:25:50
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ダリシュ的にも女の子が周りにいるよりも、男の方が気が楽でいいと思っている。
女は何かしらにつき騒ぐので、結構気を使ったりと大変なのだ。
その点、男は何も気を使わなくてもいいし、何でも話せたり出来るのだ。
「ねぇ、黄泉君。黄泉って名前格好いいね」
「架衣瑠君はどんな女性(ヒト)がタイプ?」
「ねぇ、今日一緒にお昼食べない?」
早速女子のラブ・アタックが始まった。
いつになく張り切っている女子の姿が見える。
その日は特に何もなく終わった。
不思議に思ったのは、誰一人昨日の事を話していなかった事だ。
皆、学校に行っていたのだろうか──
学校の帰り道、ダリシュはふとそんな事を思った。
家に帰ると梓が架衣瑠を呼んだ。
架衣瑠は一人暮らしをしているらしく、見かねた梓は架衣瑠も一緒に食べる様、呼んだのだ。
梓が夕飯の支度をし、ダリシュと架衣瑠はリビングで静かに待っていた。
「飯、出来たぞ! あんま美味くないかもしんねぇけど、まぁ食えるから、気にすんな!」
架衣瑠は出された夕飯を静かに口に運んだ。
ダリシュも黙々と食べ始める。
「どうだ?」
「美味しい」
「そうか、そうか! いや〜、俺も腕上げたね!」
「……自分で言うかよ」
ダリシュが隣で小さな声で言った。
「何!?」
「別に。あ、架衣瑠、不味かったら不味いって言えよ。あいつ、すぐ調子に乗るから」
ダリシュはそ〜っと架衣瑠に言うと、架衣瑠はニッコリと微笑んだ。
梓はそれを見て、椅子から立ち上がりダリシュの後ろに回ると首元を締めた。
「うわっ!」
いきなりの衝撃でダリシュは持っていたお箸を床に落としてしまった。
「何、言ってんだよ!」
「離せ! この、離せよ!!」
「この野郎! 誰が不味いって? あぁん!?」
「だって事実だろう〜が! 俺の方がぜってぇ美味い!」
「こんのぉ〜、ふざけやがって!!」
「いって〜! 早く離せよ!!」
架衣瑠はそのやり取り静かに失笑していた。
39 :
誘惑
:07/07(土) 19:15:06
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架衣瑠が帰ると、部屋は一層静かになった。
といっても、架衣瑠は余り話してはいなかったけど、架衣瑠がいるだけで穏やかな気分になったのだ。
「つまんねぇな」
「……」
梓が頬杖をついて言ってきた。
目を細め、窓の外に浮かぶ月を見ながら。
「……俺、寝るわ」
ダリシュは言うとそそくさと部屋へと戻った。
その姿を梓は静かに見つめていた。
──架衣瑠がいると、あいつは笑う。
ダリシュは布団にもぐると、天井を見つめていた。
ふとあの時の記憶が何故か蘇ってきた。
「わ〜い! ホムンクルスだって!」
「なぁなぁ、お前死なねぇんだろ? 殺してもいい?」
日が傾き始めた夕方の公園。
幼い子供たちが遊ぶ中、ダリシュは5〜6人の子供達に囲まれていた。
そう、ダリシュは人造人間という事がばれ、子供達にはやし立てられていたのだ。
「なぁ、石、当ててみようぜ!」
一人の男の子が言った。
「え〜っ!」
もう一人は否定したが、すぐに最初の男の子が、
「大丈夫だって。こいつ、ホムンクルス≠セもん」
その言葉が深くダリシュの胸に突き刺さった。
その日は、施設の休み時間の時で、ダリシュは近くの町に出向いただけだったのだ。
その時、人造人間の証である『銀時計』が落ちてしまったのだ。
それを偶々見ていた子供達が、ダリシュを囲んだのだ。
「いくぜっ!」
男の子は思い切り振りかぶり、ダリシュに石を投げつけた。
石はダリシュの腹に当たった。
だが、ダリシュはびくともせずに、只黙って立っていた。
その後も男の子達は石を投げつけるが、ダリシュは“痛い”の一言も言わずに、ずっと投げつけられた石を体で受け止めていた。
やがて、ダリシュが何も言わないので、逆に怖くなった男の子達は一斉に逃げ出した。
「あいつ、本物だ〜!」
最後にその一言だけ言って公園から姿を消した。
何故、今、その時の事を思い出したのかは分からない。
只、自分が人造人間である事を再確認させられた。
40 :
誘惑
:07/12(木) 18:12:38
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
お詫び
最近、更新出来なくて真に申し訳ありません。
実を言いますと、テスト期間だったもので、パソコンが使えなかったんです。
すいません、明日からちゃんと更新致します。
41 :
誘惑
:07/15(日) 20:42:45
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
翌日になると、見事な快晴空となった。
澄んだ空に小鳥が2〜3匹優雅に飛んでいる。
梓はいつもの様に目を覚まし、顔を洗い、服を着替えた。
そして自分達の食す朝ごはんを作るのだ。
少し遅れてダリシュも起きてきた。
まだ寝ぼけた感じのあるダリシュは、頭に寝癖をつけていた。
「悪ぃ……、寝すぎた……」
「いいよ」
梓は目の前にあるフライパンを動かしながら、ダリシュの方を見て答えた。
ダリシュは素早く寝癖を整えると、席に着いた。
それと同時にどこからか、大きな爆発音が聞こえた。
「!」
二人は急いで窓の外を覗き込んだ。
すると、向こうの方から煙が立ち上がっていた。
その煙は一箇所だけではなく、他の場所からも上がっていた。
「何だ?」
「分からない。何か、爆発したみたいだ」
二人は慌てて外に飛び出した。
すると同時に架衣瑠も外に出ていた。
「何があったか分かるか!?」
「いえ、俺も何が起こったか分からなくて……」
「そうか」
架衣瑠は二人に一礼すると部屋に戻った。
梓とダリシュも部屋へと戻っていった。
42 :
待ち
:07/16(月) 17:26:21
HOST:59-171-72-228.rev.home.ne.jp
誘惑さん、初めまして。
今までのお話、読ませて頂きました。
とても面白いです。
期待しています、頑張ってください。
43 :
誘惑
:07/16(月) 22:34:30
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*待ちさま
どうも、初めまして。
面白いって言って頂きありがとうございます。
期待にこたえられる様頑張りたいと思います!
追記
もしお暇でしたら、サイトの方にも行ってみて下さい。
44 :
誘惑
:07/19(木) 22:52:35
HOST:nthygo094086.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
梓とダリシュは着替えを早々と終わらせ、駆けて行った。
何が起こったのか、確かめる為に。
数分がしてようやく辿り着いた場所、なんと青海学園だった。
といっても、校舎全体が爆発している訳ではなく、校舎横にある物置小屋が黒い煙を上げていたのだ。
野次馬が揃う中、二人は人込みを縫って前方まで出てきた。
二人は立ち止まり、立ち上る煙を見ていた。
「……一体、誰がこんな事を」
梓は呟いた。
朝早くに来ていた生徒も慌てて外に飛び出したのか、少し息が切れている。
梓は近くにいた生徒に聞いてみた。
「おい、何があったんだ?」
「分からない。俺は教室で本を読んでいたんだ。そしたら急に大きな爆発音がして、見れば物置小屋が爆発していたんだ」
少し遅れて架衣瑠が到着した。
架衣瑠も何が起きたのか困った表情をしていた。
校舎から先生が数名出てきた。
その中には梓達の担任もいる。
「皆、今日は帰りなさい。早く!」
先生の言葉に驚いた生徒は一目散に駆け出した。
それぞれ自分の家へと急いだ。
その中で二人ともう一人は、人込みの流れに逆らいそのまま立っていた。
「梓さん、これは……」
架衣瑠はおどおどしていて、不安そうな顔をしている。
「分からない。けど、もしかして……」
梓はダリシュの目を見た。
ダリシュは軽く頷くと、
「その可能性はあるかもしれない。けど……」
「それはない」
横からの突然の声。
それは梓の声でもなく、架衣瑠の声でもなかった。
そう、それは大宮香奈子の声だった。
「お前っ……!」
「心配しなよ。今日はしないからさ」
ダリシュは興奮気味の梓を抑えながら質問する。
「これはお前がやったんじゃないのか」
「違う。こんな事する様な部隊じゃない」
「その確信は?」
「ない。が、そう言える自信はある」
風に乗って煙の臭いが混じる。
それは喉の奥を乾かす様な乾燥しきった風だった。
「梓さん、部隊って」
「あ、いや、何でもねぇよ」
──そういうえば、こいつは何も知らないんだ。
梓はそう思った途端、ダリシュと架衣瑠の手を引き、その場を足早に出て行った。
香奈子は一人、グランドに取り残された。
45 :
誘惑
:07/20(金) 15:20:40
HOST:nthygo076035.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
香奈子は燃える小屋を眺めていた。
すると、横には服部十が立っていた。
「えらいことになったな」
「ああ……」
「これ、お前んとこがやったんじゃないのか」
「違う」
「じゃあ……」
十は言いかけたが口を閉じた。
思い当たる点があったのだ。
「まさか……」
「その可能性はある。現にこうしてやられている」
「そんなの俺達でも対処出来ねぇよ」
「そうだな。だから『あの方』が動いている」
「おい……それって」
「詳しい事は帰ってから聞きな」
香奈子はそう言うと、走り去ってしまった。
「大変な事が起きてしもた……」
大通りまで来た三人は、立ち止まり息を整える。
「どうしたんだよ。急に走り出して」
「架衣瑠はもうこのまま帰れ。いいな、絶対に外には出るなよ」
「……あ、あぁ」
架衣瑠は梓に促されて自宅へと急いだ。
「どうしたんだ」
「あいつは俺達の事を知らない。だから、あいつは何も知らなくていいんだ。それより、今から神父の所に行くぞ。何か分かるかもしれない」
「そうだな」
ダリシュは納得した顔をすると、神父のいる所へと急いだ。
46 :
サヤコ
:07/24(火) 19:04:04
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげです(^_-)☆
47 :
誘惑
:07/24(火) 22:43:52
HOST:nthygo076035.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさま
あげありがとうございます!
これからもよろしくです!!
48 :
誘惑
:07/24(火) 23:05:32
HOST:nthygo076035.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「神父〜、いるか〜」
梓の大きな声が教会内に響いた。
すると、奥から神父が現れた。
「余り、大きな声は出さないで下さいよ」
神父はぶつぶつ言いながら出てきた。
「今日はどうしたんですか?」
「学校にある建物が爆発した」
「それは何故?」
「知らない」
梓は淡々と語り始めた。
その横で小さくダリシュは呟いた。
「パニッシュ・ローの人間がいた」
「パニッシュ・ローがですか? それは、また……。という事は、ダリシュ君は狙われているのですね」
「…そういう事になる」
「なるほど……」
神父は考え込んだ様子で言ってきた。
「そうとなると『あの人』が動く可能性がありますね」
「『あの人』って?」
「いえ、こちらの話です。それより、今日は早めに帰って方がいいです。いや、もう帰りなさい」
神父は二人を扉の前まで背中を押して進ました。
訳が分からず戸惑う二人を神父は優しい笑みを浮かべた。
「少し調べる事が出来ました。ですから、今日はこの辺で……。また、来て下さいね」
そう言うと神父は扉を閉めた。
出された二人は渋々帰り始めた。
「『あの人』が動いてきましたか」
神父はそう呟くとまた、奥の部屋へと入っていった。
49 :
誘惑
:07/30(月) 13:07:47
HOST:nthygo086046.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
二人はリビングで向かい合って座っていた。
だが、どちらとも喋ろうとはしなかった。
深く考え込んでいる様子である。
その沈黙を破ったのはチャイムの音だった。
「どちら様ですか?」
梓がドアを開けると、そこには大宮香奈子が立っていた。
「お前っ、何しにきた!」
梓が大声を出したので、それに驚きダリシュも身をのり出した。
「そんなに驚かれても…、私はあんた達を守りにきた」
「はぁ!?」
意味の分からない事を言われ混乱する梓とダリシュ。
梓はもう一度聞いてみた。
「今、なんて」
「だから、あんた達を守りにきた」
「守るって、何を」
「身柄」
「なんでだよ、あんた等は人造人間削除隊だろ? なんで守る必要がある?」
「パニッシュ・ローにだって役割がある。私は戦闘を主にやっているが、保護隊というのもやっている」
「それと、俺達が何の関係があるんだ?」
「『あの方』から命令なんだよ。だから、しょうがないんだよ」
「『あの方』って誰だよ……」
梓とダリシュはその言葉に引っ掛かる。
神父も言っていた『あの方』とは……。
「それは言えないが、偉いお方だ」
「……」
腑に落ちないでいると、香奈子の後ろに人影が見えた。
それは梓の部屋へと近づいて来る。
目を凝らして見ると、それは架衣瑠だった。
架衣瑠がこちらに向かって来ている。
すると、香奈子の後ろで立ち止まった。
香奈子はその気配に気付いていない。
それは一瞬の出来事だった。
突然、香奈子がふら付いたのだ。
「あっ……」
香奈子は小さくうめくと、床に倒れた。
香奈子の背中には刃渡り30センチある包丁が刺さっていた。
「おい……」
倒れた加奈子の後ろで架衣瑠は不気味に笑っていた。
まるで、虫けらでも見るような目で。
架衣瑠の手は香奈子の血痕で赤く染まっていた。
「ダリシュ、救急車呼べ! 早く!!」
50 :
誘惑
:07/31(火) 14:24:45
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ダリシュが電話で救急車を呼んでいる最中、梓と架衣瑠の間には張り詰めた空気が流れていた。
玄関から入る冷気が身体を固くさせる。
「お前、なんてことしてんだ」
梓の口調は震えていた。
それを嘲笑うかの様に、口元を微かに動かした。
「ねぇ、お兄ちゃん′トんでくれない?」
梓の質問は無視し、勝手に奇妙な事を言い出す架衣瑠。
「お兄ちゃん≠チて誰の事だよ。だいだい、此処には俺とダリシュしかいないんだよ」
架衣瑠はスーッと腕を上げ、人差し指を梓の方に向けた。
一瞬、梓はびくりとしたが、ゆっくりと後ろを振り返った。
そう、ダリシュだった。
電話を掛け終え、様子を見に出ていたのだ。
その時、梓と架衣瑠の会話が聞こえたのだ。
「えっ」
ダリシュも心底驚いているようだ。
梓さえ、驚きを隠しきれず目を大きく見開いている。
──俺が、兄? 待て、俺には兄弟はいない!
ダリシュの心臓は鼓動が速くなる。
──訳、分かんねぇ。俺が、兄!? あいつは何を言ってるんだ?
額から嫌な汗が滲み出る。
──嘘だろ。
鼓動は速さを増すばかりで、汗も一向に止まらない。
──嘘だろ。
そうしている間に外から赤い光が見えた。
──嘘だ!
「またね、お兄ちゃん」
架衣瑠はそう言うと去って行った。
それと同時に救急隊員が駆けつけてきた。
救急隊員は香奈子を見つけると、すぐにタンカーに乗せ下へと降りて行った。
その様子を只、じーっと黙って眺めている二人がいた。
香奈子が何故刺されたのか、事情聴取されている時、梓は思った。
──まだあいつは、捕まるわけにはいかない。
咄嗟に出た言葉がこれだった。
「犯人は見てません。チャイムが鳴ったんで見に行ったら、その時には香奈子は倒れていました。それで、急いで救急車を呼びました」
「その時ダリシュ君は何をしていたのかな?」
「ダリシュは部屋で本を読んでいました」
「そうか。じゃあ今日はもうよろしい。帰りなさい」
「はい」
梓はそう椅子から立ち上がると部屋を後にした。
その頃ダリシュも同じ事を言っていた。
二人で計画を立てたのだ。
俺達は犯人を見ていない、俺はこう言う、だからお前はこう言え、と……。
架衣瑠をかばう訳じゃない。
只、あいつにはいろいろと聞かなければならない事がある。
その為、捕まっては困るのだ。
ダリシュの頭の中では、架衣瑠の言葉がこびり付いて離れない。
頭がおかしくなるのではないか、というぐらいに廻り続けている。
それは紛れも無い『兄』という言葉。
それしか頭に浮かんでこないのだ。
51 :
誘惑
:08/02(木) 13:51:24
HOST:nthygo086046.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
『お兄ちゃん』
その言葉が呪文の様に駆け巡る。
忘れようとしても、忘れられない。
いっその事、時間を戻したいぐらいだ。
頭を抱えて考えても、それに対する『情報』が出てこない。
施設で貰った資料を隅々まで見ても、何も出てこない。
不安が募るばかりで、一向に解決方法が見つからない。
その前に自分が誰なのかさえ、分からなくなってきた。
──俺は、誰だ?
自分が自分でなくなる様な気がしてならない。
早く、この悪夢が醒めればいいのに──。
その頃の梓は、病院で香奈子の様子を見ていた。
奇跡的に命に別状は無く、一命を取りとめたのだ。
梓は、香奈子の横に立ち、小さく声をかけた。
「大丈夫か」
「……えぇ」
香奈子は少し大人しくなった。
不近親かもしれないが、梓はそう思った。
「あいつ、何者か知ってるか?」
「…架衣瑠は私の上司だった」
「上司?」
香奈子は遠い目で、真っ白な天井を見ながら語り始めた。
「そう、あれは2年前の、私が人造人間削除隊に入る前の事だった。私が物心つく前に両親が死んだ。事故死だった。その上、両親に身寄りはなく、現場で泣きじゃくる私を警察が施設に預けたんだ。それが、始まりだった」
ある雨の降る日、香奈子は一人、川岸に座りこんでいた。
傘もさしていなかったので、香奈子はずぶ濡れになっていた。
川は激しく流れ、轟音が耳に焼きつく。
そんな時だった。
「お前は一人か?」
突然、後ろから声をかけられた。
その声はとても穏やかな声質だった。
香奈子はゆっくりと振り返った。
驚くわけでもなく、興味を示さない目で……。
「……何」
擦れた声で聞き返す。
「俺と、手を組まないか」
「どうして……」
「今、人手が足りなくて困ってるんだ」
「……」
「協力してくれないか?」
香奈子は視線を川に戻すと、低く尋ねた。
「貴方は、誰?」
男は香奈子の横に腰を下ろした。
香奈子はちらりと男を見た。
黒のスーツに身を包み、漆黒の瞳が鋭く光る。
それに、ついつい見とれてしまう。
「俺は、カイルだ。カイル・D・コンバット」
「それから、私の特訓は始まった。まずは、政府機関に入り、人造人間削除隊のトレーニングを毎日した。それはとてもきつかった。その上で、架衣瑠に特別に指導された。本当に人を殺す為の奥義を」
「……」
窓から吹きつける風が、香奈子の前髪を揺らす。
「そして、架衣瑠がダリシュの弟という事も知った。架衣瑠は凄くダリシュの事を憎んでいる。何故だかは分からない。けど、初めて会った時、私はこの人に着いていこうと思った。薄暗い施設の中で暮らすよりは、こっちの方が何倍もいいと思った。まぁ、見つかれば政府にかなり酷い仕打ちを受ける事になるけどね」
香奈子は柔らかい笑顔で語った。
梓はその話しに驚いた。
「…なぁ、それ、本当なのか?」
「本当だ」
「じゃあ、架衣瑠がダリシュの弟だって事も……」
「本当だ」
梓はその言葉を聞くと、病室を走り去っていた。
乱暴に開けたドアがゆらゆらと揺れていた。
52 :
誘惑
:08/03(金) 10:31:00
HOST:nthygo086046.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
家に着くなり、梓はダリシュの部屋の扉を思い切り開けた。
ダリシュはベッドの隅で小さくなっていたが、突然の物音に顔を上げた。
「どうしたんだ……」
ダリシュは素っ気なく声をかけてみた。
すると、梓の口から衝撃的な言葉が出た。
「架衣瑠はお前の弟だ…!」
「…本当に?」
「あぁ。さっき、香奈子に聞いてきた」
はぁはぁ言う梓の吐息だけが部屋に響く。
訪れると分かっていた静寂。
「ダリシュ……」
梓が声をかけると、ダリシュは部屋を飛び出した。
「ダリシュ!」
ダリシュはドアを開け、階段を駆け下りた。
「ダリシュ……」
梓は一人、ダリシュの部屋で佇んでいた。
──弟、弟、おとうと。
ダリシュはマンションを飛び出し、人気のない公園へと向かった。
──どうしてこの言葉は俺を、こんなにも悩ませる?
公園に着き、誰もいないブランコに腰掛けた。
爽やかな風が、静かにブランコを揺らす。
ダリシュはブランコに乗りながら考えた。
──元々、人造人間には兄弟なんかいないんだ。否、人造人間に兄弟がいるなんて、聞いた事がない。じゃあ、どうして俺には“兄弟”がいるんだ? どうして?
ダリシュのいる所が少し、陰になった。
顔を上げると、架衣瑠が立っていた。
「You are a poor guy.」
それだけ言うと架衣瑠は去って行った。
その時の顔が凄く憎らしく思ったのは、この時だった。
ダリシュは、そのまま顔を下げた。
少しからず、目には涙が滲んでいた。
『お前は可哀想な奴なんだよ』
53 :
誘惑
:08/03(金) 16:11:05
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──どうして俺は、可哀想な奴なんだ。俺は今、幸せに暮らしてるはずだろ? 俺は、俺は……!
そんな事を考えていると、遠くの方から声がした。
「ダリシュー!」
梓だった。
途端に、涙が溢れ出した。
「……っ!」
そのまま俯き、涙が零れる。
乾いた地面に雫が吸い込まれていく。
「どうしたんだ?」
息を切らしながら尋ねてくる。
梓はそっと、ダリシュの頭を軽く叩いた。
「…俺さ、分かんなくなってきた。俺が…誰なのかさえも……。俺は、何処から来て、どうして此処にいるのか……もう、分かんないんだっ」
「…そうか」
梓はそっとダリシュの頭を抱き抱えた。
その瞬間、ダリシュの目頭は熱くなり、大粒の涙が零れ出す。
止まる事を知らない泉の様に……。
「俺、どうしたらいいんだ? もう、何をしたらいいのか、分かんねぇ……」
梓は穏やかな声で言う。
「大丈夫だ。俺がちゃんとついているからさ。安心しろ」
梓はダリシュを立ち上がらせると、自分達の家へと歩き出した。
まだ、何も知らない二人に過酷な試練が待ち構えていた──
そう、此処からが真の物語(ストーリー)───
54 :
誘惑
:08/06(月) 10:02:06
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数日が過ぎると、香奈子は退院し元気な姿を見せた。
「よっ! お二人さん、元気してる?」
陽気な声で言ってくる香奈子に、梓は生返事した。
「何? もう、大丈夫なの」
「あぁ。すっかり良くなったよ。どっちかってぇと、身体がなまったかもね」
「そう…そんなに元気になったんだ」
梓はそう言うと、机にの上に広げている教科書に目をやった。
そして、ダリシュが素っ気なく聞いた。
「今日はどうしてうちに?」
「ん〜、架衣瑠に裏切られたし、何かやる気ないから、政府辞めた」
「はぁ!?」
それを聞いてか梓も顔を上げた。
「そんな簡単に辞めれるのか?」
香奈子は腰に手を付き、呆れた声で言う。
「だって、元々拾われた人間だし、そういう事簡単に出来るんだよ、政府は」
「なんか……凄い」
圧倒された様にダリシュは息を吐き出す。
梓も同じ様に息を吐き出した。
「で、これからどうする訳」
良い答えは期待してないが、それでもまともな返事が返ってくると信じている二人がいた。
けど、現実はそう甘くなく、香奈子の口から衝撃的な言葉が出た。
「それは、決めた。あんた達と一緒に行動する。だから、部屋貸して」
椅子がガタッと音を立て、梓は椅子から落ちた。
こんな漫画みたいな事を、今時はしないだろう。
ダリシュも頭をゴンッと机にぶつけた。
どこかの新喜劇でも見ているようだ。
梓はむくりと身体を起こして、声を張り上げて言った。
「だから、何でそうなんだよー!」
香奈子は耳を塞いで、聞こえないようにしていた。
ダリシュは呆れた様に尋ねる。
「何で、俺達に……」
「ん、特に理由はないよ。只、あんた達といると楽しいかなって。そう思っただけ」
そう言うと香奈子は家を出て行った。
梓とダリシュは顔を見合わせ、クスッと笑った。
55 :
誘惑
:08/08(水) 11:07:04
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「で、何で俺はこんな事してるわけ」
誰もいない公園の砂場で、梓は大量の汗をかきながら尋ねる。
午後の陽射しが射す、ちょっとした熱い砂漠地帯。
「梓、頑張れ」
遠くのベンチに座りながらダリシュは言う。
「うるせー!」
「ほ〜ら、無駄口叩かないでさっさとやる」
両手を合わせ、梓を怒る。
梓はむっとし、渋々従った。
何故、梓はこんな事をしているのかというと、ほんの数時間前の事である。
それは二人が昼食を摂っている時だった。
突然、香奈子が現れ梓を外に引っ張り出したのだ。
梓は訳が分からず、引っ張られるままに外に出た。
ダリシュも箸を置き、梓と香奈子の後を追う。
そして、辿り着いたのが人気の無い公園だった。
「なんだよ!」
「今から、特訓する」
「はぁ?」
ダリシュも追いつき、木陰になっているベンチに座った。
面白そうと思い、ダリシュは何も言わなかった。
「あのな、何で俺が特訓なんかしなきゃいけねぇんだ」
怒り気味で言う、梓はダリシュから見れば、本当に怒っている様に見える。
だが、そんな事は気にせず、話を続ける香奈子。
「これから、一杯襲ってくるじゃん」
「誰が」
「人造人間削除隊」
「誰を」
「ダリシュ」
「それとこれがどう関係するんだよ」
香奈子は呆れたように溜息をつくと、仕方なく話し始めた。
「はぁ〜。あんた、本当に馬鹿ね。今、人造人間削除隊が動いているでしょ。で、殆どの人造人間は回収されてるわけ。で、この街に残ってるのがダリシュだけなの。だから。全国各地から、エリート級のパニッシュ・ローが来るの。分かる?」
「あぁ。で、何で俺は特訓をしなきゃいけねぇんだ」
「そりゃ、ダリシュを守る為じゃない」
「!」
それには、流石にダリシュも驚いた。
「まぁ、私は政府の特訓メニューこなしてるから大丈夫だし、ダリシュも羽があるし、技も使える。で、問題になるのが……」
「俺?」
「そう」
梓は自分に人差し指を向けたまま、首を傾げる。
香奈子は梓に人差し指を向けた。そして、大声でこう言った。
「あんたは俗に言う、用無し! そんな奴が一緒にいたら、万が一死ぬかもしれない! 分かる? 要するに足手まといになるの! その為にも、特訓して鍛えて、ダリシュを守れる様にならなきゃいけないの! だから、こうして私が直々に教えてあげるって言ってんの!」
梓は耳を塞いでいた。と言っても多少は聞こえている。
「要するに、俺を超格好いい男にしてくれるんだな」
「……馬鹿だわ、あんた」
そして、今に至るわけだ。
梓は、香奈子にカイナを2周してこいと言われた。
カイナといっても結構広く、2周となると距離に換算すると軽く50キロはある。
3時間かけて戻って来た梓は汗びっしょりとなっていた。
着ていたTシャツも、汗で濡れ軽く透け始めた。
それから、香奈子の特訓は続いた。
嫌々言いながらも、従う梓を相当気に入ったらしい。
その為、梓の特訓は激しさを増すばかりだ。
ベンチに座っているダリシュも笑顔でその光景を見ていた。
梓が俺の為に頑張っている、と少し嬉しくてたまらない。
ダリシュは心の中で呟いた。
──梓、頑張れ。そして、ありがとう。
56 :
雫 餡子
(EJtHT/7YUM)
:08/09(木) 09:28:27
HOST:d202051032073.cable.ogaki-tv.ne.jp
評価しましたぁーw
57 :
誘惑
:08/09(木) 16:38:47
HOST:nthygo086046.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*雫 餡子さま
評価、ありがとうございます。
58 :
誘惑
:08/11(土) 14:49:40
HOST:nthygo086046.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
2週間が過ぎると、梓も大分慣れたのか香奈子のメニューを難なくこなしていった。
大分汗をかくのが遅くなってきた。
初めの頃は10分も経たないうちに、汗ビッショリになっていたのに、今では1時間程度、身体を動かしてから汗が出るようになった。
ある昼下がり、ベンチで休んでいる梓がダリシュに言った。
「なぁ、神父んとこ行ってみるか?」
「あぁ、そうだな。最近、行ってないし」
「じゃあ、今から行くか?」
「別にいいけど。香奈子は?」
「ん〜、神父って誰?」
香奈子は聞いた。
それを梓が答えた。
「海辺の近くに教会があんだよ。そこの神父」
「ふ〜ん。じゃあ、ちょっと行ってみようかな」
「じゃあ、決まりだな」
そう言って梓は立ち上がると、公園の入り口まで行った。
「ちょっと待った!」
香奈子がそう言うと梓は立ち止まり、振り返る。
「なんだよ」
香奈子は腕組しニヤニヤしながら言う。
「これも特訓さ。海までダッシュ!」
「はぁ〜?」
「ほら、行きな!」
「ちっ…!」
梓は下打ちすると、海に向かって駆けて行った。
「じゃあ、あたし達も行こうかな」
ダリシュはベンチから立ち上がり、自分の羽を取り出した。
飛ぼうとした瞬間、香奈子に羽を掴まれた。
「痛いっ! 何!」
「あたしを連れて行きなさいよ」
香奈子は満面の笑みで言った。
「仕方ないなぁ…」
ダリシュは渋々、香奈子を背中に担ぎ飛びたった。
59 :
誘惑
:08/14(火) 21:38:05
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「梓、どこにいんだろ」
梓より先に着いていると思った二人は、教会周辺を探していた。
だが、どこにも見当たらなく仕方なく二人は教会の中へと入っていった。
すると、中には梓がお茶を飲みながら椅子に座っていた。
「おせ〜な」
梓より先に着いたと思っていた二人は驚いた。
ダリシュはいつも通り飛んでいたが、それでも飛ぶ方がはるかに速い。
走っているのと、飛んでいるのではスピードが違いすぎる。
それなのに、梓は先に来ていた。
「梓…お前、本当に走ったのか」
「走ったよ。だから、茶〜飲んでんの」
「へぇ〜、あんたよく走ったね。しかも、私達よりも先に着くなんて」
ダリシュ曰く、香奈子は感心した様に言う。
「うるせっ。俺だって頑張ってんだよ」
梓は空になったコップを神父に渡し「こっち座れよ」と手招きした。
神父はにこりと笑い、二人を見る。
「さぁ、お座り」
二人は梓の横に座ると、差し出されたお茶を貰った。
60 :
誘惑
:08/17(金) 13:08:25
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「神父、紹介するな」
梓はそう言うと香奈子の方を見た。
「こいつは、大宮香奈子。まぁ、訳有りで俺達と一緒にいる」
「そうですか。私は、メルス・オートと言います。『神父』と呼んで頂いて結構です」
神父は笑顔でそう言うと香奈子に手を差し出した。
「大宮香奈子です」
香奈子も手を差し出し、二人は握手した。
「可愛らしいお嬢さんですね。二人とも、手を出してはいけませんよ」
神父はそう言うと奥の部屋へと入っていった。
扉が閉まりかけた時、梓が大声で言った。
「何言ってんだよー!」
ダリシュも驚いて目を大きく見開いた。
香奈子は隣に座っているダリシュに小さな声で聞いた。
「…あの人は、いつもああなのか?」
半ば驚いているダリシュは言葉に詰まる。
「い、いや…。いつもは、もっと…ていうか、あんな冗談は言わない人だ……」
「ふ〜ん」
「神父も、とうとう妬きが廻ったか」
梓が口を尖らせて言う。
「てか、あんた達襲わないでよ?」
香奈子は不敵な笑みを浮かべて、二人に上目遣いをして言う。
「……!」
ダリシュは言葉を失った様に、そのまま固まっていた。
「誰が襲うかーー!」
梓は怒り爆発した険相で香奈子を怒鳴った。
「楽しそうですね…」
奥の部屋でコップを洗いながら、教会内で騒ぐ3人の声を聞いて微笑んでいた。
一通り洗い終わると、神父はタオルで手を拭き近くの椅子に腰掛けた。
「ですが…あの子が二人につくとは。ふふっ、面白い事になりそうですね……」
神父は怪しく笑うと、椅子から立ち上がり3人の居る教会内へと戻っていった。
61 :
誘惑
:08/22(水) 08:34:06
HOST:nthygo026066.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「神父〜、今日はありがとな」
「いいですよ」
神父は笑顔で3人に言う。
「また、来るから」
「えぇ、いつでも来て下さい」
「それじゃあ」
「えぇ、気を付けて下さい」
「は〜い」
そう言うと3人は教会を後にした。
そして、扉の前で香奈子は梓に、
「じゃあ、家までランニングね」
「…まじかよ」
「いいじゃない、ダッシュじゃないんだから」
梓はやる気の無い目で香奈子を見ると、無言のまま走って行った。
ダリシュも羽を広げ、香奈子を背中に乗せると飛び上がり家まで翼を羽ばたかせた。
「あ〜、づがれだ〜」
梓は家に着くなりドカッとソファに座りこみ、コップに入った水をがぶがぶ飲んだ。
「梓、風呂湧いたぜ。入ってきたら」
「あぁ。ありがとう」
梓は、タンスからバスタオルと着替えの服を取り出し浴場へと向かった。
「あいつ、相当疲れてんね」
「あんなの、まだまだだよ」
キッチンで料理を作っている香奈子に、ダリシュは薄く笑ってみせた。
ダリシュは干していた洗濯物を取り込むと、丁寧にたたみ始めた。
──こうしていると、本当に『家族』みたいだ……。
3人で生活していると、それぞれの役割を果たし何気ない事で笑ったり、時には怒ったり……。
そんな生活が続くと、ダリシュはあの時≠フ寂しさを忘れられ、何よりも、3人で暮らす事が楽しくて堪らないのだ。
そう、この生活がいつまでも続くと思っていた──
だが、それは突然崩れ去り、楽しかったあの日々は、もう戻ってはこなかった……。
それが、世界の終幕(オワリ)でもあったのかもしれない。
これから起こる事に、3人はどうしていくのか──?
3人の絆は……どこまで持つのだろうか。
62 :
サヤコ
:08/23(木) 19:23:07
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
お久しぶりです('-^*)/
こるからも頑張って下さいね☆彡
応援してます(^o^)v-~~~
63 :
誘惑
:08/23(木) 19:34:10
HOST:nthygo026066.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさま
あげ、ありがとうございます。
期待に応えられる様に頑張ります!
64 :
誘惑
:08/24(金) 13:00:28
HOST:nthygo026066.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
この場を借りまして、自分の小説を紹介したいと思います。
まずは、この『果てしなく続く空の下』。
次に、『「私」という名の存在理由』。
これは、もう書き辞めてますが、個人サイトでまだ書いてます。
最後に、新刊となる『花想蓮華』を書いてます。
お暇でしたらまた覗きに来て下さい。
皆さんのお越しを、心からお待ちしております。
最後に私の個人サイトを掲載します。
65 :
誘惑
:08/28(火) 21:37:27
HOST:nthygo095114.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ある昼下がりの午後、一番暑くなる時間。
梓とダリシュと香奈子は、午後の授業をサボり屋上でグダグダと話していた。
「あちぃな」
コンクリートの上に仰向けで寝ながら梓は言う。
「そりゃ、もう6月だし……」
手で顔をハタハタと扇いで香奈子は返事する。
ダリシュはさっき買った缶ジュースを飲んでいる。
「なぁ、俺いつまでトレーニングしなきゃいけねぇんだ」
咄嗟に梓はそんな事を言ってきた。
香奈子は声色を変えずに素っ気なく答えた。
「人造人間削除隊が来るまで」
「え〜」
「梓、頑張れ」
ダリシュは他人事の様に言う。
「お前なぁ……」
梓は疲れ切った声を出した。
そんな時だった。
急に風が強く吹き、空は曇り出した。
香奈子が持っていたハンカチが空高く舞い上がる。
「なんだ…」
辺りを見回すと、見知らぬ人が宙に浮いていた。
見慣れた光景が蘇る。
そう、あの時もこれと同じ──
「私達が最初に闘った時と同じだね」
浮いている人達が来ているのは、一人ひとり違うが必ず左腕に黄色スカーフを巻いているのだ。
その中で一人、一際目立つ赤いスカーフを巻いた男がいた。
その男は、皆より前に出、大きな声で喋り出す。
「貴様は、ダリシュ・D・コンバットだな。貴様を、回収する」
その言葉を合図に、10人ほどいる人が一斉に動き出した。
皆、ダリシュを狙っている。
「梓、やるよ!」
香奈子の声に梓は「おう!」と返事をすると二人も動き出した。
ダリシュは羽を出し大空へと羽ばたいた。
「あんた達には、邪魔させないよ!」
香奈子に襲いかかる数人の男を相手にしながら、香奈子は次々に男達をなぎ倒していく。
一方の梓も、何処から取り出したのか小さなナイフで相手を切っていく。
「ダリシュを回収したかったら、まず俺を倒してからにしな!」
そう言うと、梓に大きな剣を振りかざしてくる男に、すかさず避け瞬時に相手のあいている所を見つけると、ナイフを深く突き刺した。
男はその場に崩れ落ちた。
その頃のダリシュは宙に浮き、赤いスカーフの男と向きあっていた。
降りしきる雨の中、雷の轟音しか聞こえない沈黙が続いた。
口を開いたのはスカーフの男だった。
「私は、この戦闘隊の隊長を務めている新垣だ。素直に回収されてくれれば、痛い目にあわせなくて済む」
「……嫌だ」
新垣は一度目を閉じると、
「ならば仕方ない」
新垣は素早くダリシュに襲いかかった。
66 :
暁
:08/29(水) 14:41:39
HOST:ser359478000842554
すごいですね!
なんとゆ-か…話が深い!!
応援してますね☆
がんばってさい!★
67 :
誘惑
:08/29(水) 16:26:35
HOST:nthygo095114.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*暁さま
ありがとうございます。
深いですか、ディープですか…笑
はい! 頑張ります!
68 :
サヤコ
:09/02(日) 11:24:02
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
下がってたんであげb(%*'v`$)d⌒☆゜
69 :
誘惑
:09/05(水) 16:54:04
HOST:nthygo085176.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさま
ホントいつもありがとうございます!
最近更新が出来なくてすみません。
今日書けるか分かりませんが、出来たら書きたいと思います。
迷惑かけてすみません!
70 :
誘惑
:09/06(木) 20:31:56
HOST:nthygo085176.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
新垣はダリシュの背後に回り、すかさず剣を振り回す。
それをダリシュは避けると、神父に言われた事をやった。
そう、あの時と同じ様に……。
ダリシュは両腕を胸の辺りでクロスさせると、素早く武器を出した。
「チャクラム」
すると、羽から何枚もの羽の刃が新垣を襲った。
だが、新垣も軽く避けていく。
「その程度か……」
新垣は嘲笑う様に言うと、口端を上げて笑った。
ダリシュは何も言えなかった。
それもそのはず。
ダリシュはそれ以外何も使えないのだ。
そんな時、神父の声とは違う、別の声がダリシュの耳に届いたのだ。
それは、どこかで聞いた事のある声だった。
聞こえるか。今から言う事をよく聞け。
──誰だ。
その質問には、後で答えてやる。だから、今は俺の話を聞け。
ダリシュは耳を澄ませた。
その声を聞きながらも、ダリシュは素早く新垣の攻撃をかわした。
いいか、羽を広げて自分を包め。そうすれば中から武器が出る。
──武器?
そうだ。それを使って奴を倒せ。ヘブン≠ニ言えばいい。
──分かった。
ダリシュが納得すると、その声は消えた。
何事も無く、新垣が襲い掛かって来る。
ダリシュは新垣から離れると、さっきの声の通りにした。
羽を大きく広げ、ダリシュは自分を包み込んだ。
そして「ヘブン」と言った。
すると、羽から光が溢れ、なんと手に長い剣を持っていたのだ。
ダリシュはそれを持ち、構えると新垣の方へと襲いかかった。
新垣は呆気に取られ、少しの間動けずにいた。
71 :
誘惑
:09/09(日) 21:48:11
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「何っ!?」
新垣は、向かってくるダリシュに対し、懸命に避けた。
だが、ダリシュの剣は青白い光を放っており、それに目が離せないでいた。
新垣も、剣を振るがなかなか当たらず、擦れてばかりいる。
「…くそっ!」
「あんたもさ、死にたくなかったら早く帰った方がいいよ」
ダリシュの口調は優しくはあったが、どこか裏に殺意が込められていた。
だが、新垣も諦めず体勢を立て直すと、またダリシュに襲いかかった。
ダリシュの剣と新垣の剣が交わった時、新垣はこう言った。
「貴様の弟からの命令だ。それを、裏切る事は出来ない」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、ダリシュは少し力が緩んだ。
その隙を狙って新垣は左手に剣を持ち、右手でダリシュの頬を殴った。
「くっ…」
ダリシュはそのまま、急降下し屋上のコンクリートに体を強く打ちつけた。
「ダリシュ!」
もう、闘い終わった梓と香奈子がダリシュの元へと駆けつけた。
「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!」
「あ、あぁ……」
ダリシュは咄嗟に羽を出して、クッション代わりにしたので大事にはいたらなかった。
が、強く打ちつけたので少しながら意識が朦朧としていた。
「どうした。もうお終いか」
新垣がゆっくりと下へと降りてくる。
「くそっ」
ダリシュは体を起こすと、剣を構える。
その前に、梓と香奈子が壁の様にダリシュの前に立った。
二人の目は、狩人の様な強い目をしていた。
新垣は辺りを見渡すと、部下が血を流して倒れているのが見えた。
そして、剣をしまい3人にこう言った。
「今日はここまでにしておいてやる。だが、今度会った時は覚悟するがいい」
そうして新垣は、振り続く雨の中に姿を消した。
72 :
誘惑
:09/10(月) 01:20:27
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「くっ……」
ダリシュはコンクリートの上に方膝を着いた。
少し顔が疲れている。
梓はダリシュの腕を自分の肩に回すと、ダリシュをゆっくりと立ち上がらせ、屋上を後にした。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
香奈子もダリシュの腕を自分の肩に回して、歩いて行く。
3人は保健室に行き、ダリシュをベッドに寝かせる。
生憎、保健医はおらず、自由に使えた。
そこで、ダリシュを寝かせる事にした。
「悪いな…少し、やり過ぎた……」
ダリシュはゆっくりと羽を体内にしまい、深い眠りに落ちていった。
梓と香奈子は保健室を後にした。
2時間ぐらいするとダリシュは目が覚めた。
横には、誰かが横たわっているのが見える。
ダリシュが起きるのを待っていて、眠ってしまったのだろう。
ダリシュが顔を覗きこむと、そこには見慣れた顔があった。
「架衣瑠……」
そう、ダリシュの弟と言う架衣瑠だったのだ。
何故ここに架衣瑠がいるのか、疑問に思ったダリシュはベッドから出、架衣瑠から離れた。
ベッドが軋んだせいか、その音で架衣瑠は目が覚めた。
「あ、起きたんだ」
「なぜ、ここにいるんだ」
ダリシュは、間を置き質問する。
架衣瑠は腕組をして、ダリシュを見る。
「今日はお詫びにきた」
「詫び?」
「さっき、あんたを倒そうとした奴らの変わりにね。まだ、あんたには死なれちゃ困るから」
架衣瑠はそう言うと、保健室を出る間際に「悪かった」と言った。
──何だよ、あいつ……。訳、分かんねぇ。
ダリシュは、いざという時の為に羽を出そうとしていたが、何も無かったので、羽をしまった。
73 :
誘惑
:09/11(火) 21:48:09
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教室に戻ると、梓と香奈子だけが残っていた。
皆は、先に帰ってしまったのだ。
「悪いな」
「いいよ。じゃあ、帰ろうぜ」
「…うん」
梓と香奈子が立ち上がると、ダリシュも自分の鞄を持つ。
だが、ダリシュは浮かない顔をしていた。
「どうした?」
夕日が教室に差し込む中、梓は聞く。
赤い夕日に照らされたダリシュの顔は、悲しげに見えた。
ダリシュは重い口を開き、小さな声で話し始める。
「さっき、保健室で架衣瑠に会った」
「何!?」
香奈子は振り向きダリシュを見る。
「何て言ってた」
「悪かったって……」
「悪かった=H」
「あぁ」
梓も香奈子も疑問を抱いた。
「それで?」
3人は夕日が沈む中、家へと足を進ませる。
「何も…」
「そうか……」
それからしばらくの間、沈黙が続いた。
ダリシュは遠くの方を見る様な目で、今日の事を思い出している様に見える。
他の二人は、未だ架衣瑠の言った言葉に疑問を抱いている様だ。
「はい! お待ちどうさま。香奈子特製、スペシャルシチュー」
香奈子は両手に自分が作ったシチューを持って出てきた。
それを机の上に置き、二人に食べる様に催促する。
梓はいつも同様、口一杯に頬張り食べる。
が、一方のダリシュはまだ何か考えているみたいで、あまり手が動いていなかった。
74 :
誘惑
:09/13(木) 20:35:42
HOST:nthygo085176.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
今日の朝は騒がしい。
そう思って起きたのは梓だった。
外から、激しい音が鳴り続けている。
それが睡眠を妨げ、梓は眠い目を擦りながら起きだしたのだ。
部屋を出ると、リビングには誰も居なかった。
「ダリシュ……?」
いつもなら、この時間帯には起きていて朝ご飯を作っている。
なのに、今日はキッチンにダリシュの姿が見えない。
──そういえば、香奈子も見てない。
不意にベランダの窓が開いているの気付いた。
「やばっ、昨日締めずに寝たか?」
そう思ってベランダに近づくと、白い羽が落ちていた。
梓はそれを拾うと、何かに気付いた。
──ダリシュの、羽か……?
その時、ベランダに勢いよくダリシュが落ちてきた。
それを見た梓は、窓を開けダリシュの元へと急ぐ。
「おい、ダリシュ! しっかりしろ!」
ダリシュの肩を揺さぶると、微かに目を開けてこちらを見ていた。
だが、それもつかの間。
ダリシュは勢いよく起き上がると、目を赤色に光らせ、また空に羽ばたいていった。
「!」
それと同時だろうか、香奈子の部屋からもの凄い音が聞こえたのだ。
梓は急いで香奈子の部屋を覗くと、そこには横たわる香奈子がいた。
「おい、香奈子! 何があったんだ!」
梓は大声で香奈子に問い掛けると、蚊の鳴く様な小さな声で言った。
「…パニッシュ・ローが来てる」
そう言うと、回復したのか、再び起き上がり窓の外へ飛び出した。
だが、その足取りはフラフラしており、意識がはっきりしているのかさえ、分からなかった。
──いつ、来たんだよ……!
梓は寝巻きから動きやすい服に着替えると、ベランダに急いだ。
だが、そこには何も無かった。
血まみれになったダリシュが立っているだけだった。
無造作に飛び散った純白の羽、淫らに滴る赤黒い血、そして血色に底光りする鋭い瞳。
──誰だ……?
75 :
誘惑
:09/15(土) 14:51:05
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梓は、ダリシュの姿を見て何も言えなかった。
ただただ、立ち尽くす事しか出来なかった。
「梓……」
ダリシュは1歩ずつ梓に近づく。
梓は、蛇に睨まれた蛙の様に固まったまま動かなかった。
そして、ダリシュがもう少しで梓の所につく直前に、その場に倒れ込んでしまった。
ダリシュの倒れた所には、大量の血がフローリングを赤く染める。
「おい、ダリシュ!」
梓はダリシュに駆け寄り、体を揺する。
だが、ダリシュの意識は無く、眠り入る様に静かに目を閉じていた。
後から香奈子も出てきた。
香奈子の部屋は見るも無残な状態だった。
香奈子自身、体に深い傷を負っていたり、疲労が顔に表れていた。
梓は二人を寝かせると、部屋の片付けを始めた。
ダリシュの流した血は、時間が経ち固まり始めた。
雑巾で床を根気強く磨く。
窓ガラスは業者の人に来てもらい、数分で直してもらった。
香奈子の部屋は香奈子が起きてからする事にした。
一応、女の部屋でもあるし、タンスから衣服が出ているのとそれに混じって下着も数枚出ていた。
それを片付けるのは少し気が引いた。
そうこうしているうちに、辺りはすっかりオレンジ色に染まっていた。
気がつけば、もう4時になっていた。
リビングとベランダは、前よりか綺麗になった。
梓は、ソファに座ると、暗い顔をして何か考え始めた。
──何故、パニッシュ・ローは俺の家を知っている? そもそも、あいつ等は何者なんだ。香奈子みたく、自由に空を飛んでいる。いや、香奈子は本当に俺達の味方なのか?
頭の中で葛藤が続く。
香奈子を肯定する自分と、否定する自分。
梓自身、どちらが正しいのか分からなくなってきている。
──もしかしたら、あいつが俺達の居場所を? いや、それだったら、架衣瑠の話なんかしないだろう。それに、政府の事をいつも話すのは香奈子じゃないか。そんなはず無い!
すると、香奈子が起きてきた。
梓はハッとして顔を上げる。
香奈子は頭を抑えて、体中に残る傷を赤く目立たせていた。
「痛っ……」
──今考えるのはやめよう。
梓はそう思い、香奈子にこっちにくるように言う。
そして、香奈子がソファに座ると、梓は取ってきておいた救急箱を取り出した。
「腕、かせ」
梓がそう言うと、香奈子はゆっくりと腕を出す。
その腕を掴み、救急箱に入ってる消毒液を取り出した。
それをティッシュに付け、香奈子に傷につける。
「いっ……!」
「我慢しろ」
香奈子は痛そうにするが、我慢し痛みに耐えた。
数分がすると、香奈子の応急処置は終わり、腕に白い包帯を目立たせていた。
「ありがとう、梓」
「……」
梓は香奈子を見ると、ニッコリと微笑み救急箱を棚の中にしまう。
──香奈子は大丈夫だ。
梓は、キッチンに立ち温かいコーヒーを2つ煎れた。
76 :
誘惑
:09/15(土) 15:53:21
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「これは、良いできだ。素晴らしい」
「これなら、この世界を変える事が出来る」
謎の男達が声を揃えて、歓喜の言葉を言う。
皆、白衣に眼鏡を掛けており、素性が分からない。
そんな中、中央に白い台に乗った少年がいた。
その台は高さ1メートルぐらいあり、少年が一人座るぐらいの大きさで、天井からスポットライトが照らされている。
その台を囲むように、白衣の男達が見ている。
まさしく、台の上に乗っているのはダリシュだった。
背中から純白の羽を出し、黒く鋭い漆黒の瞳を揺らめかせ、品のある顔立ちで男達を見据える。
まだ、ダリシュは大きくなく一般に見かける少年と変わらなかった。
ただ、羽があるのが違いだけで……。
ダリシュの研究が成功した研究者共は嬉しそうな顔をしている。
その時、まだダリシュに名前は無かった。
だから、正式名称で呼ばれる。
「GV−A3006。25回目にして、ようやく完成した。そして、これが世界を変える……!」
研究者は、大きな期待に胸を膨らませる。
ダリシュには、何を言っているのかが分からず、自分が何故ここにいるのかさえも分からなかった。
創られたとはいえ、知識も十分ではなかった。
そして、奥から扉が開かれ、薄暗い研究室に小さな光が入り込んだ。
研究者は入って来た男に、ダリシュを見せるとその男は笑ってみせた。
笑うと金色に光る歯が煌いた。
「こいつには、未来(アス)を託そう。そうだな、お前にはダリシュ・D・コンバット≠ニ名付けよう」
そして、初めてダリシュに名前がついた。
「さぁ、来たまえ。ダリシュ」
そう言って研究者は、無理矢理ダリシュの腕を引っ張り部屋を出ようとする。
それをダリシュは懸命に拒むが、大人には敵わなかった。
「嫌だ……やめろ。放せ……放せ!」
ダリシュは後ろを振り返り、研究室のドアにしがみ付く。
そこで見たものは、研究室中を埋める、大きなカプセルだった。
それには、緑色の液体と無数の人造人間が入っていた。
ダリシュは驚きを隠せずにいたが、連れていかれまいと必死にドアにしがみ付く。
一つのカプセルの中にいる人造人間がこちらを見ていた。
その瞳は、感情こそ表れはしないが、何かを惹きつけるものがった。
ダリシュの手の力も弱まってきた。
研究者はダリシュを力ずくで連れて行こうとする。
そして、ダリシュの手がドアから離れると扉は閉まっていく。
「カイル!」
「はぁはぁ……」
荒い息が部屋に響く。
窓から指し込む赤い夕日。
ダリシュは、ベッドの上で横になっていた。
──夢、か……。
77 :
誘惑
:09/16(日) 00:31:14
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ダリシュが起きた頃には、梓はいなかった。
というよりも、香奈子の部屋に居たのだ。
二人共、荒らされた部屋を丁寧に片付けている。
ダリシュに気付いた梓は、陽気に声をかける。
「おっ、ダリシュ。もう、大丈夫なのか」
「なんとか……」
幸い、ダリシュの体に目立った傷は無かった。
だが、背中を見ると大きな痣が出来ていた。
多分、ベランダに落ちた時に出来たものだろう。
ダリシュは手伝うよ、と言い香奈子の部屋を片付け始めた。
途中、梓が香奈子の下着を見つけ惨事にはなったが、それほど時間はかからなかった。
思うように仕上がり、3人共安堵の息を漏らした。
「片付いた……」
梓の額には、汗がダラダラと流れていた。
ダリシュもそれほどではないが、汗をかいていた。
香奈子はというと、まだ懸命に自分の部屋を綺麗にしていた。
やはり、女の子だなと思う二人だった。
「そうだ、この家から出ようぜ」
唐突に言ったのは梓だった。
汗を手で拭いながら、遠くの方を見つめて言う。
「どうして……」
香奈子は驚いた顔になり、雑巾で棚を拭いていた手を止めた。
ダリシュも何も言わないが、目を大きく見開いていた。
「ここ、人造人間削除隊の奴らにばれたし、長くは居られないだろう。いつ、あいつ等が襲ってくるか分からないし。今日みたいに突然襲ってくる。その事を考えて、家を出るのが一番だと思う」
「そりゃ…そうだけど」
香奈子はやや暗い顔になり、梓に疑問を抱く。
「行く宛てはあるのか?」
ダリシュが聞くと、梓は大きく頷いてみせた。
何か、確信した様な表情だ。
香奈子に対する不信感が、梓の気持ちを整えてくれたのだろう。
「それじゃあ、明日の正午、家を出る」
梓はハッキリ言うと、拳を作って見せた。
それが、誰かに聞かれているとも知らずに……。
78 :
サヤコ
:09/16(日) 13:38:40
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげ
79 :
誘惑
:09/16(日) 16:44:14
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコ*さま
あげ、ありがとうございます!
新作の「花想蓮華」も見てやって下さい。
毎度ながら、本当に感謝しています!
80 :
誘惑
:09/17(月) 10:22:33
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正午。太陽が一段と輝きを増す。
そんな中、慌しく家を出る人がいた。
「おい、荷物ちゃんと持ったか」
玄関先で梓が、中で手間取っているダリシュと香奈子に言う。
「ちょっと、待って」
香奈子は、小さな鞄いっぱいに荷物を詰め込んでいる。
もう鞄がはちきれそうだ。
ダリシュはというと、無言で荷物を詰めている。
けど、その手のスピードは遅く、とてもゆっくりしていた。
「おい、ダリシュ! 早くしろよ!」
梓の声も耳に届いているのか危うい所ではあるが、ダリシュは手を動かすのを止めなかった。
──夢…。
ダリシュは荷物を入れながら、昨日と今日に続いた事を思い出していた。
──人造人間は夢なんて見ないはず。それなのに俺は『夢』を見た。それはありえない事。そうだ、教皇でも教わったじゃないか。人造人間は夢は見ない。絶対に=Bでも……。
「ダリシュ」
「!」
そう呼ばれ、ダリシュは歩みを止めた。
香奈子が心配そうに聞く。
「ダリシュ、大丈夫か? 顔色、悪いぞ」
「…いや、大丈夫だよ」
ダリシュは香奈子に笑顔を向けると、心配ないよと言う。
香奈子は納得し、また歩き始めた。
3人は神父のいる教会に行く途中だった。
ひとまず、神父にかくまってもらうのだ。
「ダリシュ大丈夫か。休憩するか」
梓も気になったのか、ダリシュに催促するとダリシュはいい、と言って答えた。
そうか、と梓も答えると3人はまた歩き始めた。
『只今入りました情報です。え〜、人造人間であるGV−A3006が逃走したもよう。仮名ダリシュ・D・コンバット。ダリシュ・D・コンバットです! 皆さん、この顔を見ましたら、一刻も早く、政府にお知らせ下さい! 以上、臨時ニュースでした』
街ではこのニュースが流れていた。
そして、人造人間であるダリシュの顔写真が、全国に報道された。
ダリシュ達はこの事を知らずにいた。
いよいよ、政府も本気を出したという事か──
ダリシュ達を追う者は一気に増えた。
81 :
誘惑
:09/17(月) 15:32:17
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「神父、いる〜?」
梓は教会の扉を開けて中を覗く。
だが、そこには誰もおらず静まりかえった教会があった。
「いないみたいだね」
香奈子も隙間から教会内を見渡し、誰も居ない事を確認する。
ダリシュはまだ、考え事をしている風だった。
「どうするの?」
香奈子は梓に聞くと、梓は何も答えずにずっと中を見ていた。
「…もしかして、行く宛てってここだけ?」
「……」
図星なのか、梓の額から汗が滲み出る。
「はぁ〜…」
香奈子は大きく溜息をつき、小さな切り株に腰掛けた。
梓は扉を閉めると地面に腰を下ろす。
「どうすんのさ、これから」
「どうしようか……」
梓はやる気のない声で答える。
「俺の親父は政府の味方だろうし…神父だけだったのに。はぁ〜」
頼りになる者がいなくなった今、3人はただの根無し草。
宛てもなく、ただ歩き続けるしかなかった。
「さてと、んじゃ行きますか」
梓は立ち上がり、服に付いた砂を払い落とす。
「行くってどこに」
香奈子もつられて立ち上がると、砂を払い落とす。
「さぁな」
「さぁなって」
「今は、あいつの身が大事だろ。なら、こんな政府の近くにいるよりは遠くに逃げた方が利巧だろ」
梓はダリシュを見ながら話す。
「おい、ダリシュ。行くぞ」
ダリシュにそう声をかけ、荷物を持つ。
ダリシュもゆっくりと腰を上げると、梓に着いていく。
「…仕方ない」
頭をかいて、香奈子も二人の後を追う。
82 :
誘惑
:09/17(月) 16:13:05
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──時々、俺は自分を見失う。本当に自分が誰なのか、俺は何の為に生まれてきたのか。造られた事に何か意味があるのか。こんな争いをする事に意味がるのか。それもこれも、自分のせいなのか。俺は、誰なんだろう……。
夕焼けに染まる街を見渡しながら、ダリシュはふと思った。
──そもそも、人造人間は何故、造られたのだろう。俺が造られた時には、もう何百体という数の人造人間がいた。俺は思う。存在価値さえない俺達に生きる意味があるのだろうか。そうさ、ここで俺が死んでしまえば梓や香奈子に迷惑かける必要がなくなる。そうだ、俺が死にさえすれば二人は助かるんだ!
ダリシュはふらふら歩きながら思う。
赤く染まる街に生きている必要はないと確信する。
自分は必要のない『物』だと──
──俺は『人間』じゃない。『物』なんだ。だから、梓や香奈子達と共に生きる必要はない。そうさ、俺は人造人間ではありえない事がたくさん起こっている。夢を見るはずないのに『夢』を見たり、いないはずの『兄弟』がいる。俺は、失敗作だ……。壊れて当たり前のロボット≠ヘとっとと消えるのが一番なんだ。
「今日はここで休もう」
辺りは暗くなり、すっかり陽が落ちた。
街の外灯やネオンだけが綺麗に輝いていた。
梓達は隣町の小さな公園にいた。
今日はここで野宿するらしい。
「寝るとこ、どうするの?」
香奈子はそっとベンチに座る。
「そりゃ、自分で考えて見つからない所に隠れて寝るだけだよ」
梓はそう言うと、適当に場所を見つけそこに荷物を置いた。
そして、鞄から家から持ってきたおにぎりを取り出すと、その場で食べ始めた。
香奈子は座っていたベンチで寝る事にした。
ダリシュも大きな木の陰に荷物をおろした。
──俺はいつまで、この二人に着いて行こうか。
ダリシュはおにぎりを食べながら考えた。
──俺がいれば迷惑になるんだ。出来るだけ早く出よう。
だんだん、夜も深くなり満天の星空の中3人は寝る事にした。
皆、それぞれ決めた場所で寝、眠りにつく。
ダリシュは二人が寝た後もまだ起きていた。
暗い空に輝く星を見ながら何を思ったのだろう。
木の陰に隠れながら、ダリシュはそっと眠りについた。
83 :
誘惑
:09/18(火) 20:16:49
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暗い闇の中、数人の男達が1箇所に集まり、小さな部屋の中で話する。
蝋燭に照らし出された顔は、不気味な印象を醸し出す。
闇の中で怪しく微笑む人物がいた。
男達はその男を囲むようにして座り、中心に座る男に耳を傾ける。
「メルス様、ダリシュ・D・コンバットはどうしますか?」
「…ふふっ、どうしましょうか」
「今、奴らは家を出て逃走しています。今日の正午に出ていくのを確認しました」
「そうですか……」
メルスはほくそえむ。
それを見た男は尋ねる。
「どうかしましたか?」
「いえ、これから面白くなりそうですね……」
メルスの八重歯が蝋燭に照らされ、一同少しながら怯んでしまう。
メルスの恐ろしさを知っている者には、決してメルスに逆らわない事を掟として守っている。
そう、メルスは教会の神父でありながら、政府機関のトップの幹事長、皆が言う『あの方』なのだ。
梓やダリシュは勿論の事、政府の人間である香奈子でさえメルスが『あの方』というのは知らなかった。
「さて、あの子達はどう楽しませてくれるのでしょう……」
メルスの嘲笑いだけが、暗い室内を満たしていく。
朝日が顔に当たり、起きたくなくても起きてしまう。
そんな、少し苛つく朝がやってきた。
相変わらずダリシュはボーっとしたままだった。
「ふわ〜…」
大きく伸びをし、朝の光を浴びると香奈子は起きだした。
それにつられて梓も身を起こす。
「さて、朝食でも買いに行くか?」
まだ頭が回転していないなか、梓は行動し始める。
それを香奈子が眠そうな声で止める。
「もうちょっとだけ待って」
「あ?」
梓は仕方ないという顔をして、ダリシュの方へと歩き出した。
「おはよう、ダリシュ」
「おはよう…」
梓はダリシュの横に腰を下ろすと、気持ちいいなぁと朝日をいっぱいに浴びる。
「ちゃんと眠れたか?」
ダリシュを気使い、梓は心配した声で言う。
「お前、昨日あまり食べてなかっただろう。言えば、俺のあげたのに」
「昨日はあまり食欲が無くて……」
「そうか……」
無言が続く。
柔らかな朝日と穏やかな風だけが音を立てる。
木の葉が風に揺れさわさわと音をたて、梓とダリシュの前髪が微かに靡く。
「絶対に逃げ切るぞ」
梓の一言がダリシュの胸に深く突き刺さり、重く圧し掛かる。
──俺は……。
梓はダリシュに笑顔を向けると、立ち上がり荷物をまとめ始めた。
その頃には香奈子も完全に目が覚めたのか、近くの水道で顔を洗ってきていた。
ダリシュは朝日を見ながら思った。
──俺は、梓達といていいのか……?
84 :
誘惑
:09/20(木) 21:15:08
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腕時計を見ると、8時過ぎだった。
朝日が完全に昇ると、人々は起きだす。
それと同時に3人はまた歩き始める。
「梓、どこに行くんだ?」
元気を取り戻したダリシュは梓に尋ねる。
今まで一言も喋らなかったダリシュが、梓の一言によって心が動いた。
『絶対に逃げ切るぞ』
その言葉はダリシュに元気を与え、勇気も与えた。
そしてその言葉には、俺達と一緒に居ていいんだぞという、梓なりの励ましの意味も含まれていた。
その様子を後ろから眺めていた香奈子は、自然と笑みがこぼれる。
──やっぱ、こうでなきゃ。
香奈子は心の中で呟いた。
その時だった。
上空から車が急降下してき、梓達3人を取り囲んだ。
その車には政府の物であろう文字が記されていた。
「梓、ダリシュ! これは政府の車だよ……」
香奈子が低い声で梓とダリシュに言うと、二人は驚いた顔になった。
梓は身構えると、ダリシュを自分の背中に隠した。
ダリシュも持っていた荷物を地面に置き、羽を少し出す。
香奈子は政府の車を睨みつけていた。
「ダリシュ・D・コンバット、貴様を回収しに来た。大人しくしていれば、痛い目をみなくて済む。抵抗するならば、それなりの事はさせてもらう」
突然発せられた声に、ダリシュは身構える。
そして、車の中からあの時と同じ様な人間が何人も出てきた。
皆、左腕にスカーフを巻いている。
違うのは色だけ。
あとは、あの屋上で戦った時を同じ格好をしている。
ゆっくりと歩いてくるパニッシュ・ローに3人は勢いよく向かっていった。
梓は右半分を、香奈子は左半分をそしてダリシュが真ん中の数人を相手にした。
相手は武器を持ち合わせ、一人は剣、一人は銃と個人が違う物を持っていた。
「おらぁーーー!」
梓は迷いもなく、突っ切っていく。
次に次に赤い血を吹き出させ、倒れていく人を踏みにじって行った。
香奈子も腰に隠してきた、小刀を取り出し相手の首を狙って刺す。
首からは大量の血が吹き出し、香奈子の顔や服に返り血が付いた。
ダリシュも空高く舞い上がり、接戦していた。
羽から武器を取り出し、剣を交える。
相手の隙を見て、腹や足、そして頭と切っていく。
空中でしている為、血は下に流れ落ちる。
それはまるで、赤い雨の様に異様なものを感じた。
赤い雨の中、繰り広げる闘いは長く続いた。
3人の顔は人殺しの顔に染まってた。
85 :
誘惑
:09/22(土) 16:04:41
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
一通り闘いも終わり、辺りは血だらけになっていた。
3人も肩が上がり、はぁはぁ言っている。
そして、梓が行こうと言い3人はその場を去ろうとしていた。
すると一台の車から誰かが出てきて梓達を呼び止めた。
「待ちたまえ」
ダリシュはその声に振り返る。
梓も香奈子もその姿に絶句する。
出てきたのは大柄の男だった。
男は黒の足まであるだろうロングコートを羽織り、黒の帽子を深く被っていた。
そして、そのコートの襟で口元を隠す様に来ていた。
やはり、左腕にはスカーフが巻いてあった。
梓達は立ち止まりその男を見た。
男はゆっくりと喋り始めた。
というより、梓達の顔を見て微かに顔を変えた。
「貴様らは立派な人殺しだな…」
男は微笑して言う。
梓達はその言葉に殺意を覚えた。
「何だって!」
梓は怒声を上げる。
それを聞いた男は更に嘲笑う。
「俺達は何もしてねぇだろ!」
「しているだろう。人殺しを」
「違う!」
「違わない。もう、立派な犯罪者だ」
「……!」
その言葉に頭を切らした香奈子が言う。
「私達が何をしたっていうの! 元々、あんた達がいけないんでしょうが! どうして、こんな事をさせるの? 前はあんなに国を守ろうとしていたのに……」
香奈子の握っている拳がふるふると震える。
男は香奈子を見ると思い出した様に言う。
「お前は、政府の人間だな」
「そうだよ。それがどうした」
「そうか。なら、何故そいつらにつく?」
「はぁ? そんなの仲間に決まってるからだろ!」
男はその言葉を聞いた時、大きな声を出して笑い始めた。
3人は怪訝な顔をして男を見る。
「いや、すまない。仲間か。その仲間で人殺しをしている訳だ」
「どうしてそうなんだよ!」
梓も黙っていられなかった。
男は更に話を続けようとしたが、ダリシュが遮った。
「これ以上、梓と香奈子に何か言えば、あなたを殺しますよ」
そう言ってダリシュは、梓と香奈子を見た。
そして、3人は男を置いたまま歩き始めた。
86 :
サヤコ
:09/22(土) 23:25:03
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげい('-^*)/
87 :
誘惑
:09/23(日) 09:46:09
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコ*さま
あげ、ありがとうございます。
お礼申し上げます!
88 :
誘惑
:09/23(日) 21:17:10
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「何だよ、あの野郎……!」
梓は怒りを露にし、頭に血をのぼらせている。
相当、頭にきたのだろう。
先ほどから、あの男に対しての愚痴ばかり吐いている。
「俺達が人殺しとか…意味分かんねぇ」
「梓……」
「俺は、俺達はダリシュを守っているだけだろう」
梓の拳は強く握りしめられた。
ダリシュは、泣きそうな顔になると梓を見つめた。
「とにかくさ、あいつ等が分からない所に逃げよう」
後ろから香奈子が言う。
香奈子は服や顔に付いた血痕を取りたいと、梓達に言う。
梓もダリシュも服は血だらけになっていた。
「さすがに、ヤバイな……」
梓もそう思ったのだろう、自分の格好を見て目を丸くした。
ダリシュも閉じた羽に赤い血が付いている。
3人は手短な公衆トイレに行くと、そこで血痕を洗い流した。
とは、言っても血が付いてから結構時間が経っておりなかなか取れなかった。
ダリシュの羽はいくら擦っても落ちなかった。
しまいには、梓と香奈子も手伝っていた。
どうせ、しまうからと言ってダリシュは羽を体内にしまい込んだ。
「はぁ〜…」
大きな溜息をついて、3人はベンチにどかっと座った。
そして、近くの自動販売機で買った缶ジュースをごくごくと飲んだ。
オートシティの公園を出てから5時間が経過していた。
いつの間にか正午を過ぎていた。
「腹、減ったなぁ〜」
梓がやる気のない声で呟くと、ダリシュも頷く。
「どこか店ねぇかなぁ……」
梓が辺りを見渡すものの、住宅街ばかりで店があるとしたら小さな薬局ぐらいだった。
ダリシュも羽を広げ、大空高く舞い上がり見渡すと、やはり何も無かった。
「どうする〜?」
香奈子が死にそうな声で梓に尋ねる。
梓は首を横に振るだけだった。
89 :
誘惑
:09/28(金) 13:40:43
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香奈子が鞄の中を探っていると、何かを見つけた。
「あっ」
「?」
梓とダリシュは香奈子の方を振り返る。
香奈子は嬉しそうに手をひろげた。
「いい物見っけた。ほら、飴玉」
香奈子が広げた手の中には、小さな飴玉が3つのっていた。
それを、香奈子は梓とダリシュにあげる。
「これで、ちょっとは空腹を紛らわせばいい」
香奈子は大きな口を開けて、小さな飴玉を口の中に入れた。
赤い、苺味の飴は口の中で甘く溶けだした。
梓も袋を開け飴を口の中に入れる。
「無いよりはマシか…」
そうして、小さな飴玉を口の中で転がしながら味わった。
一方のダリシュは、飴玉は食べずにポケットの中にしまった。
──後で、食べよう。
そうして、真昼の太陽を眺めた。
梓も香奈子も大分空腹を紛らわす事が出来たのか、先ほどとはうってかわって笑顔になっていた。
「よし、行くか」
梓は立ち上がると、二人も立ち上がった。
そして、小さな鞄を持つと、また歩き始めた。
陽射しは強くなるばかりで、3人の体力を吸い取っていく。
額には汗が滲み、服には染みが出来ていた。
気付けば、オートシティを出てきた。
そして、隣町であるリズンに来ていた。
リズンは小さな街ではあるが、貿易商が盛んで、海外からの輸入品で溢れている。
オートシティのように、ビルが立ち並ぶ程ではないが、品揃えが豊富で、大きな街よりは幾分良い。
それに、人目にもつかない場所が多々あり、隠れ家が多い。
それ故に、強盗犯などが多く滞在している事もある。
「リズンに来たな」
梓は汗まみれの顔を手で拭いながら、リズンの街を見渡す。
ダリシュも見渡すと、小さな店を見つけた。
その店には『FOOD』と書いてあった。
よく見ると、小さな飲食店だった。
ダリシュは梓と香奈子を手招きし、その店を指さした。
それを見た梓は目が輝き、口がポカンと開いた。
香奈子も嬉しそうに目を輝かせた。
「行こう!」
梓が言うと、3人はその店に向かった。
90 :
誘惑
:10/01(月) 17:15:37
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梓が扉の前で急に立ち止まる。
それに、二人も足を止める。
「そうだ」
「…何?」
梓は振り返るとダリシュを見た。
ダリシュは何が何だか分からず、目をキョロキョロさせる。
「な…なに」
「お前の顔、全国に知れ渡ってるよな。だったらこのままじゃ、すぐに通報される」
そうなのだ。
ダリシュは前のニュースで全国に顔写真が報道されたのだ。
その為、ダリシュの顔は誰もが知っているのだ。
「俺達は大丈夫だけど……ダリシュはやばいよな。香奈子、サングラスとか持ってね?」
梓がそう言うと、香奈子は鞄の中を探り始めた。
「ん〜、ちょっと待って。あぁ、あった」
はい、と言ってダリシュに茶色のサングラスを渡した。
ダリシュはそれを受け取ると、早速サングラスを掛けた。
大きなサングラスの為、殆ど顔は分からなくなった。
梓はそれを確認すると、店の扉を開けた。
「いらっしゃい」
中から陽気な声が聞こえてきたが、店には客がほとんどおらず、店員だけが、カウンターでコップを磨いていた。
梓達はそそくさとカウンターから離れた場所にある4人掛けのテーブルについた。
すると、ロボットが奥から出て来、水の入ったコップをテーブルに置いた。
「ご注文が決まりましたら、そこのボタンを押して下さい」
ロボットはそう言うと、また奥の部屋へと戻って行った。
香奈子はメニューを取ると、3ページ程のメニューを開けた。
それに見入る様に梓とダリシュも覗き込む。
「どれにする?」
香奈子が言う。
「俺は何でもいい」
「俺も」
梓とダリシュは一通り目を通すと、後は香奈子に任せた。
香奈子も決まったのか、ボタンを押す。
すると、先ほどと同じロボットが出てきた。
「ご注文は決まりましたか?」
ロボットが聞くので香奈子が答える。
「ハンバーグセットと炒飯と餃子、あと、オムライス」
「かしこまりました」
ロボットはそう言うとまた、奥へと消えて行った。
91 :
サヤコ
:10/01(月) 19:42:41
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげます!
お久しぶりです。
92 :
誘惑
:10/01(月) 20:53:02
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコ*さま
あげ、ありがとうございます。
本当にお久しぶりですね。
93 :
誘惑
:10/05(金) 18:15:48
HOST:nthygo076153.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
数分がして、ロボットがハンバーグセットと炒飯と餃子とオムライスを持って来た。
それをテーブルに置くと、また奥に消えていった。
出された料理に舌なめずりして、梓は食べ始めた。
それにつられダリシュと香奈子も食べだす。
「うまい」
そう言って梓は頬張る。
ダリシュも次々に炒飯を口に運ぶ。
その時、店の店主がテレビを点けた。
すると、そこから流れたのは人造人間の事だった。
そう、ダリシュの顔が画面一杯に出されたのだ。
それを見た3人は、息を呑んだ。
アナウンサーはこう言う。
「只今、逃走中の人造人間ダリシュ・D・コンバットは一般市民の情報によりますと、リズンに来ているとの事です。リズンにお住みの方は、ダリシュ・D・コンバットらしき物を見かけましたら、直ぐ政府に連絡して下さい」
梓はそのニュースを見て怒りを覚えた。
アナウンサーはダリシュの事を物≠ニ言っていた。
『物』
最早、人間ではなくなっていた。
完全なるロボットとして見られている。
造られているからと言って、人造人間も立派な人間。
それを物扱いした事に、梓は腹を立てている。
「…政府め」
梓は呟く様に言うと、ダリシュと香奈子に小さな声で言う。
「早く、食え。直ぐにここを出る」
それを聞いた2人は早々と食べ始める。
すると、店主がいきなりカウンター越しに話し掛けてきた。
「君達はどこから来たんだね?」
──嫌な質問だ。
香奈子はそう思いながらもオムライスを食べ続ける。
「オートシティから観光に」
梓が他所他所しく言う。
「そうかい。結構大変だっただろう」
「はい」
「君達はお友達なのかい?」
店主は微笑みながら、問いただす。
それを適当に梓は答える。
「えぇ、まぁ…」
香奈子とダリシュが食べ終わると、梓も丁度食べ終わった。
そして立ち上がろうと前屈みになると、大きなサングラスがダリシュから落ちたのだ。
それを見た店主は驚きの顔を隠せない。
そして、一変し表情を曇らせると大きな声で言う。
「お前、人造人間のダリシュ・D・コンバットだな!」
「逃げるぞ!」
梓が言い3人は店から飛び出した。
出るが早いか、店主はすぐ近くにある警報ボタンを押した。
「人造人間のダリシュ・D・コンバットがいた!」
94 :
誘惑
:10/07(日) 10:25:40
HOST:nthygo147231.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「畜生、ばれちまった……!」
梓は走りながら後ろを振り返り様子を窺う。
「悪ぃ……」
「ダリシュが謝る事じゃないよ。元々は私が貸したサングラスが大きかったせいなんだから」
香奈子は息を切らしながらもダリシュに謝る。
ダリシュは別にいい、と言って香奈子に言う。
「でもよ、今さっき通報されたからもうすぐ政府の奴らが来るよな」
梓は上空を見上げながら、政府の車が無いか確かめる。
「そうだ。ここら辺に隠れるとこないか?」
走りながら3人は辺りを見渡す。
すると、廃墟になった倉庫があった。
そこで立ち止まると、迷わず中に入って行く。
「これで、時間は稼げるな……」
息を整えながら梓は言う。
香奈子も額の汗を拭う。
薄暗い倉庫の中で、唯一光の射し込む窓が2ヶ所程しかない。
そんな中で、3人は腰を下ろし小さな声で話し合う。
「どうする。見つかったからな……一先ずここに居てそれから考えるか」
「だけど、こんな所に長く滞在しない方がいい。あいつらの捜索力は並みじゃない」
香奈子は注意深く言うと、梓は頷く。
「辞めた人間が言うのもなんだけど、あいつらを甘く見てたらこっちが潰されるよ」
「分かってる」
梓とダリシュも香奈子の話に耳を傾ける。
「今までの通り、あいつらは個々に合った武器を持っている。私もその一人で、私が持っているのは空中遊泳。これを使ってるから私は自由に空を飛べるんだ」
「その武器は政府を辞めても持っていられるのか?」
「多分、駄目だろうね。でも、私は密かに持ってきた」
「お前は、本当に大胆だな……」
梓とダリシュは同じに溜息を着き、苦笑いする。
そんな事は無視して、香奈子は喋りだす。
「だから、気を付けないといけないの。特に、その部隊の隊長には気を付けな。あいつらは私達隊員と違って、一つランクが上の武器を装備している。中には上級階級の武器を2、3個持っている奴もいるから」
そうして、香奈子の話は終わった。
梓は大体理解できた様子だ。
頭がそこまで良くない梓にとって、これしきの話でもこんがらがる事もあるのだ。
その辺、ダリシュは人造人間である為、知能は人の何倍にもなる。
これぐらいの短い話は、すぐ理解出来る。
そして、3人しかいない倉庫で、まだ話は続いた。
95 :
サヤコ
:10/08(月) 16:37:46
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげ(∀)
96 :
誘惑
:10/09(火) 18:02:18
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコ*さま
あげ、ありがとうです!
97 :
誘惑
:10/09(火) 21:37:51
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「静かに!」
そう言って香奈子は二人を見る。
それに気付いた梓とダリシュも口を塞ぐ。
その瞬間、政府の警告音が耳に入る。
警告音は耳の奥に残る様な嫌な音だった。直ぐに音は遠のいて行くが微かに聞こえている。
ようやく音が完全に聞こえなくなると、沈黙が続いた。
開いている窓から、冷たい冷気が入ってくる。
沈黙を破ったのは、香奈子だった。
「ここも危ないね……。いつ、探査機で調べられるか分からない」
香奈子は冷たいコンクリートの壁に凭れた。
ダリシュと梓も壁に凭れかかると、長い溜息をついた。
暗い天井を見上げ、ダリシュは思った。
──何で、こんな事になったんだろう……。俺が、人造人間だからか? 梓と出会ったからか? だから、二人を巻き込んだのか?
薄暗い倉庫には、3人の呼吸する音しか聞こえなかった。
いつしか、3人は眠りについた。
──誰だ、俺を呼ぶのは?
ダリシュ……
──お前は、誰なんだ?
ダリシュ……
──誰なんだよ。
ダリシュ……
──暗くて、顔が見えない。
ダリシュ……
──お前は一体、誰なんだよ!
お兄ちゃん
「うわっ!」
目を開けるとそこは明るいライトで照らされていた。
眩しさ故に何も見えないダリシュ。
そんな光の奥で一人の影が見える。
ダリシュはその人影に近づこうとしたが、身体が動かない。
よく見れば、鉄の板に十字架に縛られた様な形で、手足が鎖で縛られていた。
懸命に解こうとしたが、頑丈な鎖で切れはしない。
ダリシュは声を喉の奥から搾り出した。
「梓っ!」
その声に気付いた人影はこちらに向かって来る。
白い光の中から出てきたのはカイルだった。
「お兄ちゃん、起きたんだ」
「!」
ダリシュはカイルの姿を見ると、目を大きく見開いた。
何が起きたのか分からないダリシュは、カイルを睨み付ける様に見る。
「そんな顔しないでよ、お兄ちゃん。ここに運ぶまで苦労したんだから」
──運ぶ?
ダリシュはふと、ある点に思い当たった。
それは、倉庫で眠ってしまった事。その間に、政府に見つかってしまったのだろう。
そして、ここへ連れて来られた。
──梓と、香奈子がいない!?
ダリシュはカイルに向かって声を上げる。
「梓と香奈子は? 何処にいる!」
「まぁ、落ち着いてよ。何もしてないから。只、政府の人間が怒っていろいろしてるかもしれないけど……」
不敵に笑うとダリシュを横目で見る。
ライトに照らし出されたカイルは、初めて会った時とは違い、右目に黒い眼帯をしていた。
そして、髪は白色になり光沢を持っていた。
「お前、何の為に……」
「何の為に? そんなの決まってるじゃん。僕が、人造人間削除隊の最高責任者だから」
98 :
誘惑
:10/12(金) 17:19:23
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「くそっ!ここどこだよ!」
目を覚ました梓は、自分の立たされている立場に混乱する。
両腕を頭の上で縛られており、もがいたせいか血が滲んでいる。
横で、同じ様に香奈子も腕を縛られている。只、まだ起きていない様で眠ったままだった。
「おい、ダリシュ! ダリシュ!」
梓は大きな声で叫ぶが、聞こえるのは自分の声だけ。
白い光で照らし出された大きな扉、その先には出口があるのだろうが、梓は動けない。
──くっそ……。あいつを守れないっ!
梓は奥歯をギリギリと鳴らす。
その時だった。大きな扉から数人の男が入ってきた。
それと同時に香奈子も起きる。
状況が分からず困惑する。
「何だよ、これ……」
「お目覚めかな?」
梓と香奈子の前に立った男は、政府の人間であった。
香奈子はギッと政府の男を睨む。
「これは、これは。大宮香奈子ではないか」
不敵に笑い政府の男は香奈子を見る。
「……管理官!」
「お前は、勝手に政府を辞め、勝手に武器を持ち出した。その処分がまだだったな」
「……!」
そう言うと周りにいた男達が香奈子の縄を解く。
そして、もう一度両腕を背中の後ろで縛り香奈子を囲む。
「何処へ連れて行く気だ」
低い香奈子の声に政府は、表情も変えずに言った。
「何処って、政府に決まっているだろう。そこで、それなりの処分を受けてもらう」
香奈子は苦笑いすると、ゆっくりと歩き始めた。
それに気付いた梓は大きな声で叫ぶ。
「おい、香奈子! 何処に行くんだよ! 戻って来いよ!」
香奈子は梓の方を振り返ると、ニッコリと笑い小さな声で言った。
「戻るから。ちゃんと戻るから。それまで、ダリシュを守ってあげてよ。あんた、私が教えた事、忘れんじゃないわよ」
「香奈子……」
「私が戻るまで、待っときな。すぐ、行くから」
香奈子と政府の人間は大きな扉の前にきていた。
香奈子はこれが最後だと思い、満面の笑みで梓を見る。
「生きて──」
そう言うと、香奈子は扉の向こう側へと消えてしまった。
一人残された梓は、虚しく叫ぶだけだった。
「香奈子……香奈子ーー!」
梓の目から一筋の涙が流れた。
99 :
s
:10/12(金) 20:03:24
HOST:ACCA1Aae199.osk.mesh.ad.jp
age
100 :
誘惑
:10/12(金) 23:08:30
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*s*さま
あげ、ありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。
101 :
誘惑
:10/14(日) 10:42:31
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
「い、今なんて言った?」
ダリシュは小さな声で聞き返す。
「だから、人造人間削除隊の最高責任者。何度も言わせないでよ」
カイルはダリシュを見てにやりと笑う。
そして、部屋の横に置いてある机で何か作業をし始めると、思い出した様にカイルは言う。
「そうだ」
振り返りダリシュを見るカイルの顔は笑っていた。
「僕の下で働いている大宮香奈子って知ってるよね? お兄ちゃんと一緒に行動してたから知ってると思うんだけど、あいつ、もう戻らないから」
カイルの言っている意味が分からず、ダリシュは首を傾げる。
「戻らないって、どういう意味だ」
「あいつは規則を破ったんだよ。それ相応の処分は受けてもらわなくちゃ。まぁ、僕の指示だけどね」
まだ理解出来ていないダリシュにカイルは笑い出す。
そして、ダリシュの目の前まで来ると、
「まだ分からないの? あいつはね死んで当たり前の人間なんだよ。だから、僕が殺しちゃった」
その言葉を聞いてダリシュは顔色を変える。
憎しみが心の底から湧き上がる。
ダリシュ本人、こんな感情になるのは初めてだろう。
奥歯がギリギリと鳴る。
「殺した? お前が? 何でだよ……。何で香奈子は、香奈子は……。何で殺したーーーっ!?」
ダリシュの怒りは納まらなかった。
荒々しく息を吐き出し、いつかの様に瞳を真っ赤に染められていた。
カイルはその様を見ると、不敵に笑い出す。
「そうだよ。僕が殺したんだよ。当たり前じゃん。政府を黙って辞め、武器まで持ち出した。おまけに逃走犯と一緒に行動してたんだから、それぐらいの罰は与えても問題ないと思うけど? それとも、一生を暗い牢屋に閉じ込めて、精神が狂かれるまでの拷問を受けさせた方が良かった?」
カイルの言葉一つひとつに悪意を感じる。
自分は何もしていない、当たり前の事をしただけ、と思っているのだろうか。
「そんな事するより、どうせ死ぬんだから、手っ取り早く殺した方がいいじゃない。要らない人間は処分するのがここの規則だから。それを決めたのも僕だしね」
ダリシュは動かない身体を必死に動かし、縄を解こうとした。
だが、縄は切れず手首から赤い血が流れるだけだった。
カイルはまた机に向かうと何かを取り出した。
それは、1枚の写真だった。
「これ、誰か分かる?」
カイルはダリシュの目の前に写真を持っていき、近づける。
それを見たダリシュは目を伏せた。
そこには見るのも無残な香奈子の遺体があった。
香奈子の身体から大量の血が流れ出していた。
ダリシュはそれ以上見る事は出来ず、カイルにしまう様に言う。
「お前は、最低な奴だ……」
カイルの高笑いする声だけが部屋に響いた。
102 :
誘惑
:10/14(日) 18:08:21
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
白いライトが照らし出す部屋で、梓は一人涙を流していた。
自分が何も出来なくて、香奈子を助けられなかったと悔いているのだ。
心優しい梓は、自分で自分を責めているのだ。
そんな中、目の前の扉が開き、入って来たのはカイルと腕を縛られたダリシュだった。
「ダリシュ!」
梓が叫ぶとダリシュは顔を上げ梓を見る。
ダリシュが梓の元に駆けつけ様としたが、カイルに止められ戻されたしまった。
「梓!」
「お兄ちゃん、大人しくしててよ」
カイルが呆れた様に言うと、息を吐き出した。
ダリシュを見て安心したのか、梓の目から零れていた涙は止まっていた。
「ダリシュ、悪ぃ……。香奈子が……」
「梓……」
自分を責める梓は俯き涙が零れるのを我慢した。
「梓が悪い訳じゃない。全ては俺が悪いんだ」
ダリシュは自分を責める梓に励ましの言葉をかける。
全ては自分が悪い──と。
「君は、もう少しここに居てもらうよ。お兄ちゃんはちょっと用があるからね」
そう言ってカイルはダリシュの腕を引き、扉から出て行った。
急に居なくなったダリシュに梓は、また歯を食いしばった。
──なんて無力なんだ……!
梓は自分の非力さに打ちひしがれた。
「何処に連れて行く気だよ」
ダリシュは低い声でカイルに聞く。
カイルはにやりと笑うと、
「付いてきたら分かるよ」
そして向かった場所は、大きな鉄の両開きの扉の前だった。
そこに、微かな記憶があるダリシュはあの時の光景を思い出す。
あの、夢で見た光景──
中に入るとあの時と同じで何一つ変わっていなかった。
研究室の真ん中には高さ1メートル程の台があり、その周りを取り囲む様に緑色のカプセルが並んでいる。
その中には造りかけの人造人間が沢山浮かんでいた。
「お兄ちゃんは覚えてるよね? 連れていかれる時に僕の名前を呼んだでしょ?」
──そうだ。俺はあいつの名前を呼んだ。
「じゃあさ、今からその台にのってくれる?」
「なぜだ!」
反論するダリシュにカイルは鋭い目つきで睨む。
下から覗きこむ形で。
「逆らうの? お兄ちゃんもアイツの様になりたい?」
不敵に笑うカイルにダリシュは不覚にも怯えてしまった。
カイルの顔がこれまでにない程、恐怖で歪んでいたのだ。
103 :
誘惑
:10/14(日) 23:30:36
HOST:nthygo055173.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ダリシュは渋々、台の上に乗るとそのままペタリと座る。
その瞬間、白い光がダリシュに集中し、眩しさの余り目を閉じる。
その中からカイルの声がどこからか聞こえる。
まるで監視されている様な感じがする。
「何をする気だ」
「気にしないで。少し、身体の構造を変えるだけだから」
そう言うとカイルの声は途絶え、変わりに天井から大きな機械が下ろされた。
そして、その機械はある位置まで着くとそこで停止し、4本の触手(アーム)を出した。
それは別々に動き、一つひとつが意思を持っている様だった。
「これは、何だ」
両腕を縛られたダリシュは動けず、立ち上がるのは困難だった。
4本の触手は少しずつダリシュに近づくと、1本はダリシュの右足を1本は左足を、1本はダリシュの右手を1本は左手を持つ。
ダリシュは激しく抵抗するが機械の力は尋常ではなかった。
「放せ! 放せ!」
そしてダリシュの目の前に小型の丸い機械が現れた。
それには真ん中に赤いライトがついており、後ろにはアンテナらしき物が付いていた。
赤いライトが付いている所から、一筋の赤い光がダリシュの右目に入る。
ダリシュはそれに見惚れる様に目を開けたままいた。
やがて、大きな機械から沢山の小型機械が出てき、ダリシュの身体を少しずつ変えていった。
「やめろ……。やめろーーー!」
──ダリシュ…。お前だけは戻ってきてくれ。
その時、目の前の扉が開き、政府の制服を着た男が入ってきた。
その男達は梓の前で立ち止まると、静かに言った。
「後藤梓。貴様を解放する」
そう言って男達は梓の縄を解き始める。
男達の行動に不信感を持った梓は政府の男に聞いた。
「どうして、俺を?」
「カイル様からの許しがでた」
男は冷たく言うと、さっさと出ろと言った。
梓は押される様にして部屋から出た。
そして長い廊下に出ると、ふと思い出した。
「ダリシュは? ダリシュは何処にいんだよ!」
「あいつも直ぐお前の所に戻って来る。それまで、ここで待っていろ」
梓はホッとして肩を大きく落とした。
そして、指示されたベンチに座ると、ダリシュが来るのを静かに待った。
104 :
誘惑
:10/17(水) 16:49:20
HOST:nthygo026251.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
目が覚めるとダリシュは大きな台の上で横になっていた。
頭を押さえてダリシュは起きると、身体の異変に気付く。
──羽が生えていない。
いくら羽を出そうとしても羽は出ず、疲れるだけだった。
──カイルか?
ダリシュは羽を出すのを諦め、台から降りると辺りを見渡す。
すると、突然扉が開きカイルが入ってきた。
「目が覚めたんだ」
「お前、俺の羽に何をした」
ダリシュは睨む様にカイルを見ると、カイルは口角を上げて言う。
「何もしてないよ。只、羽を取り除いただけ。羽があるとお兄ちゃんは直ぐに逃げてしまうからね」
ついて来て、とカイルは言うとそそくさと歩き始めた。
ダリシュもカイルに注意しながら、少し間を開けて歩く。
長い廊下を歩くと、見えた先に梓がベンチに座っていた。
「梓!」
ダリシュは梓の姿が見えた瞬間、梓の元に駆け寄った。
梓もダリシュの姿を見かけ、ベンチから立ち上がる。
「良かった梓、何もされてなくて……!」
ダリシュは梓の顔を見るなり、瞳を潤ませる。
「ダリシュ…。お前は、何もされてないのか?」
梓が聞くと、ダリシュは戸惑った様に頷く。
「どうした?」
「羽を奪われた」
「奪われた?」
梓は訳の分からないという表情をすると、ダリシュは小さな声で言った。
「…悪いな」
「何でお前が謝るんだよ」
その時、後ろにいたカイルが両手を合わせポンと2回叩いた。
それに気付いた梓はカイルを見る。
「感動的なシーンで悪いんだけど、もうそろそろ僕も飽きてきたんだよね。てか、早く逃げないと僕が殺しちゃうよ?」
そう言ってカイルは右手を握りつぶす。
「どうして俺達を逃がす?」
梓が聞くとカイルは不敵に笑い出した。
不思議がるダリシュと梓にカイルはベンチに座って話す。
「僕も暇なんだよね。だから、君達を追いかけるのも楽しいと思って。だから、これはゲームだよ。僕とお兄ちゃんの……ね」
その答えを言うと、カイルは二人を嘲笑う。
梓とダリシュは無言のまま走って行く。
ここから始まる、兄弟の闘い──
香奈子を失った二人は、この試練にどう立ち向かうのか。
死練(ゲーム)の幕は、切って落とされた──
105 :
サヤコ
:10/18(木) 21:14:03
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
あげ
106 :
誘惑
:10/19(金) 16:22:52
HOST:nthygo026251.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコ*さま
あげ、ありがとうございます。
これからも宜しくお願いします!
107 :
誘惑
:10/20(土) 12:02:37
HOST:nthygo026251.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
二人が政府の建物を出てずっと走り続けていると、突然梓が走るのを止めた。
「?」
ダリシュは梓の方を振り返ると、梓の元に掛け寄る。
「どうした?」
ダリシュは梓の顔を覗き込む様に見る。
だが、梓は黙ったままで口を開こうとはしなかった。
「…何かあったか?」
ダリシュが心配そうに聴くと、梓はやっと口を開いた。
それは蚊が鳴く様な小さな声だった。
「…香奈子が……」
その一言にダリシュも顔を暗くする。そして二人は俯いてしまった。
「香奈子は、自分が連れて行かれる時、俺に言ったんだ。生きろって……」
「……」
無言のまま地面を見つめるダリシュ。梓は続ける。
「俺さ、その言葉聴いて分かったんだ。俺がダリシュを守らなきゃって。あいつは、自分の命を捨ててまで俺らの事心配してた。自分の命を捨ててまで守る物があったんだ」
梓は重い足を一歩踏み出すと、フラフラと歩いて行く。
それに続いてダリシュも梓の隣を歩く。
「俺は、あいつを守れなかった。あいつにいろんな特訓までさせられたのに……っ! 俺は、俺は……!」
自分を責める梓にダリシュは梓の肩をそっと包んだ。
「梓のせいじゃない。俺なんだよ。俺が、梓と香奈子の前に現れたから、巻き込んじまった。だから、梓は悪くないんだよ。全部は俺が悪いんだ。だからさ、香奈子の言った事、守ろうよ。香奈子の分も、生きようよ」
ダリシュの言葉に梓は、涙で潤んだ目を向ける。
──そうさ、俺が悪いんだ。梓は関係ない。
自分に言い聞かせる様にダリシュは心の中で呟いた。
そして、二人はまた走り出した。
リズンを通り越し、街を一つ抜け、山を二つ越え、どこまでも走り続けた。
政府に見つからない様に──
偶に、政府に見つかり闘う事も多々あった。
が、二人は圧倒的な力で政府の者を倒していく。
香奈子を殺した政府に恨みの念を振り撒けて。
そうして月日は流れていった。
二人が辿り着いた場所は、オートシティーから大分離れた街キャッスルタウンに来ていた。
そこは、政府の本部がある場所だった。
どうやら、梓とダリシュは政府に殴りこむ気なのだ。
「…これが政府の本部」
頂上が見えない程の高さがあるビルは、異様な空気を漂わせている。
ビルの玄関には政府の象徴でもある二匹の昇り龍が待ち構えていた。
だが、二人は入る事なく引き返した。
ここ数日間、二人はずっと戦い続けていた。その為、体力が十分に蓄えられていないのだ。
梓とダリシュは近くの店に入ると、たらふく食べた。
108 :
誘惑
:10/21(日) 21:00:10
HOST:nthygo100106.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
ダリシュは変装している為、なんとか店員には気付かれなかった。
店を出た二人は、人気の無い川原に来ていた。
橋の下で腰を下ろすと、二人は黙ったまま川を眺めた。
香奈子を失って以来、二人は変わった。
戦闘スタイルは凄く変わり、人を殺す事に躊躇いを持っていたダリシュだが、今では難なく殺していっている。
梓は少しずつだが、ダリシュに勉強を教えてもらい理解するのが早くなった。
自分の駄目な所を自分の意思で変えていっているのだ。
「…なぁ、ダリシュ」
「なに?」
梓が突然重い口を開けて、ダリシュに声をかける。
ダリシュはそれに無関心な声を出す。
「どうする」
「何が?」
「これから……」
「俺は別に」
ダリシュはそこで口を噤んだ。何かを思い出したのだろう。
梓は不思議そうにダリシュの顔を覗く。
「俺、あいつに聞かなきゃいけない事がある」
「あいつって、カイルか?」
ダリシュは小さく頷く。
そう、自分とカイルは本当に兄弟なのかという事。
「俺は小さい時の事は全然覚えてないんだ。だけど、あいつは何故か覚えている。そして俺が兄という事……」
ダリシュは緩やかに流れる川を見つめると、魚が飛び跳ねた。
「じゃあさ、それ、確かめに行くか?」
梓の言葉に顔を上げるダリシュ。
微笑む様に笑うと、梓は言う。
「お前、それは知りたいんだろ? 今、どんな事よりも」
「あぁ」
「だったら、さっさと解決してスッキリしたらいいじゃねぇか」
近くにあった小石を拾うと川に投げ入れる。
その時、政府の車が近くを通った。
物影に隠れたダリシュ達だが、しばらくするとセンサーが反応し見つかってしまった。
梓とダリシュは橋の下から飛び出すと、戦う。
行く手を誰にも邪魔させない様に──力一杯、剣を振り回す二人がいた。
109 :
誘惑
:10/22(月) 19:17:08
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──自分が出来る事は何だろうか、と考えた時俺には何も出来ない。そんな事は分かっている。俺は元々、普通の人間だったんだから。それを言ってしまえば、ダリシュには悪いのだが。俺がずべき事を考えると、いつも思い浮かぶのがこれだ。『人間』。
──人造人間の在るべき姿は人間との交友。別に交友だけじゃなくてもいい。只、人間と何らかの形で接触さえしていればいいのだ。それが、友達であろうと、恋人であろうと、家族であろうと、戦友であろうとも。何らかの形で自分と関わっていればいいのだ。これが、本来在るべき人造人間の姿なのだ。
政府との闘いを終え、二人はまた遠くに逃げていた。
だが、その途中で二人は離れ離れになってしまったのだ。
梓は西の街、セクシャルに。ダリシュは東の街、オリスに来ていた。
キャッスルタウンでの山越えで離れてしまったのだろう。
二人はその街に着くまで、全くと言っていい程、居なくなった事に気付かなかった。
「ダリシュ……?」
後ろを振り返ってもダリシュの姿は見当たらず、梓は懸命にダリシュの名を呼ぶ。
だが、ダリシュの名は全国に広まっている為、余り大きな声では叫べなかった。
「離れちまった……。あいつ、携帯とか持ってねぇからな」
梓は親指の爪を噛んで考えた。
──仕方ない。ここに居てはすぐに見つかる。どこかに隠れないと……。
そうして、梓は一先ず自分の身柄を安全な場所に隠した。
一方のダリシュも梓とはぐれた事に気付き、辺りを見渡すが知らない街で困り果てる。
どちらに行けばいいのか、初めての街に戸惑うダリシュは、やぶから棒に歩き回る。
そこへ、政府の車が近づくのが見えた。
ダリシュは急いで近くの森林に逃げ込むと、車が通り過ぎるのを静かに見送った。
「やばかった……」
ダリシュは一息つくと、近くの大きな木にもたれかかった。
大きく息を吐き出すと、力が抜けたみたいに汗が溢れ出した。
その時、暗闇の奥から誰かが近づく音がした。
それは小さな足音ではあったが、微かに草木が揺れたのだ。
──誰か来る。
ダリシュは息を潜めると、近づく相手を待った。
現れた人物は、漆黒の羽を揺らし、右目に眼帯をしている男だった。
そう、カイルだ。
「……っ!」
「あっ、お兄ちゃん。こんな所に居たんだ」
にこやかに笑うカイルの笑みは、どこか闇に包まれていた。
110 :
誘惑
:10/24(水) 22:02:12
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「何であんたが此処にいんだよ」
梓は住宅街を抜けると細い裏道に来ていた。
だが、そこで思わぬ人ど出会う。
そう、それは黒い服に身を纏った神父だった。
「神父、どうしてこんな所に?」
神父は満面の笑みを浮かべると、
「只、通りかかっただけです」
と丁寧な口調で答えた。
梓はそれを不審に思い、神父の様子を窺う。
すると、突然神父は言い出す。
「そういえば、ダリシュ君がいませんね。香奈子さんもいらっしゃらないのですか?」
梓は唇を噛むと、怪訝そうな顔をした。
それを見た神父は口角を上げ、不気味に笑う。
「そうでした。香奈子さんは死んだのでしたね」
「どうして、それを……」
梓は顔を上げて神父を見つめると、神父は不敵に笑う。
そして、ゆっくりと歩きなら梓に近づく。
「どうしてでしょう。私が、香奈子さんを殺したからですよ」
それと同時に、梓の腹を蹴り上げた。
顔を苦痛で歪ませる梓は、腹を抱えて倒れこむ。
「がはっ」
神父は梓の隣に立つと、梓を見下ろしている。
まるで、地面を這う虫けらを見るかの様な目つきで。
「一つ言っておきましょう。あなた達がいくら逃げても私達が必ず見つけ出しますから。その事、よく覚えておくといいでしょう。今頃、ダリシュ君もあの人と出会っている頃でしょうから」
そう言って神父は梓をその場に残し去って行った。
梓はなんとか立ち上がると、腹を押さえたまま神父の後ろ姿を見つめる。
そして、その後姿の神父の背中に言葉をつきつける。
「てめぇらには絶対捕まらねぇ! 何があっても逃げ切ってやる! 俺らをナメんなよっ!」
梓の声は裏路地いっぱいに響くと、静かに消えて行った。
今は、誰もが敵である。
信じていられるのは自分だけ。
梓は重い足取りで歩いて行く。自分だけを信じて。
──ダリシュ、待っていろよ。
111 :
誘惑
:10/26(金) 22:56:23
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「お兄ちゃん、早く逃げなよ。もうすぐ政府の奴が来るよ?」
カイルは笑って言うとダリシュを見る。
ダリシュはその場から直ぐに立ち去ると、カイルはクスクスと笑う。
そして、木陰に隠れていた政府の人間を呼び出し、ダリシュを追う様に言う。
「お兄ちゃんは本当に馬鹿だなぁ。普通、そんな事言われて逃げるかな? 人が良すぎるんだよ。恨むなら、自分を恨みなよ」
ダリシュは荒々しく呼吸をして走りだす。
後ろから誰かが追いかけて来るのが足音で分かる。
たくさんの人が追いかけている。自分を求めて。
政府の人間はざっと数えて20人は居る。
しかも、カイルの部下となると結構な武器を持ち合わせている。
羽の生えないダリシュにとって、走るのは疲れる。
「っくそ!」
大きな十字路を左に曲がると、行き止まりになっていた。
──これじゃあ、武器も出せない。
そう、ダリシュは羽から武器を取り出している為、羽が無い今ダリシュに戦う物は何も無い。
ダリシュに勝ち目は無いのだ。
「さぁ、ダリシュ・D・コンバット。こちらへ来なさい」
ダリシュは呼吸を整えると、大きく深呼吸をし政府を見据える。
そして、大きな声を出して政府に向かって行った。
「うわあぁぁぁぁぁ!」
ダリシュは政府の人間を押しのける様に進む。
ダリシュにとって20人という壁は、案外簡単に抜けられるものだった。
気がつけば、十字路の真ん中に立っており、振り返ると政府の人間が追いかけてくる。
ダリシュはそれに気付くと、また走りだす。
──くそっ! 捕まってたまるか!
だが、行く手を阻むものは政府の人間だけではなかった。
一般市民までもがダリシュを捕まえようと身をのりだすのだ。
ダリシュには捕まえれば賞金が出る様になっているのだ。
それも全て政府の言った事。
皆、賞金目当てでダリシュを捕まえようとする。
ダリシュは全力で人間の壁を走り抜けて行く。
「梓……無事でいてくれっ!」
ダリシュは梓が無事でいる事を切に願っていた。
112 :
誘惑
:10/27(土) 12:24:15
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時は流れる。いつもと同じ様に。
何事も無かった様に時は流れ続ける。
自分達の知らない場所で、激しい闘いが行われている事も知らずに……。
身も心もボロボロになったダリシュは、もう戦う術は何も無かった。
梓と別れて3週間が経つ。だが、一向に梓と会えず政府の人間とばかり追いかけっこをしている。
気がつけば何処にいるのかさえ分からない。
只、必死に逃げて自分が死なない様にするだけで精一杯だった。
「はぁはぁ……」
何処に逃げても政府の人間は追ってくる。
そう、何処に逃げても……。
「梓、あず…さ、梓ーーー!」
あれから3週間の時が過ぎた。
ダリシュと別れてから一度も会っていない。
梓は政府に追われる事は無いが、ダリシュに身が心配でならない。
自分に政府の人間が追って来ないのは嬉しい事だが、その分ダリシュの方にいくのだ。
だが、梓は疑問に思った事がある。
「神父は何で俺達を襲う?」
そう、丁度3週間前のダリシュと別れた時の事。
裏路地に入った梓は神父と出会わせた。
そこで、腹に蹴りを入れられそのまま倒れたのだ。
その時の神父の言葉は今でも覚えている。
『あなた達がいくら逃げても私達が必ず見つけ出す』
あの時は無意識にあんな事を言っていたが、今思えば不思議な事だ。
──なぜ神父は俺達を追う?
謎は深まるばかりだ。
辺りを見渡せばすっかり暗くなっていた。
今日もまた、どこかで野宿をする。
政府に見つからない様に……。
梓は近くの空家に入ると、そこで寝床を作り眠りに入る。
ダリシュと出会える日を待ちながら。
113 :
誘惑
:10/27(土) 22:19:28
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逃げても逃げても追って来る政府の人間にダリシュは疲れ切っていた。
顔はやつれて身体もボロボロ、もう戦う気力さえ残っていなかった。
表情も衰弱しきっていて喋る気にすらならなかった。
今、ダリシュが持っている物と言えば香奈子に貰った飴が入った鞄だけだった。
──そうだ……飴。
ダリシュは小さな鞄から、もっと小さい飴を取り出した。
綺麗な包みを開けると、硝子玉の様な赤い飴が包まれていた。
ダリシュはそれを口に入れると少しずつ味わった。
自然とダリシュの目からは一筋の涙が頬を伝っていた。
「梓……香奈子……」
今までの苦しみが一気に押し寄せてきたのだ。
ダリシュは道端に倒れ込む様に寝そべる。
その上から激しい雨がダリシュを叩く。
飴を口の中で転がしながらしっかりと味わうダリシュ。
涙は雨と一緒に地面に流れ染み込む。
──このまま死んでもいいや……。結局、俺は只の役立たずだったんだ。香奈子を救えず梓さえも守れずに……。俺は、何の為に生きているんだよ。
ダリシュはこれ以上ない程に、自分を責めていた。
もう、死ぬ事しか頭に浮かばないダリシュは、香奈子と梓の笑顔を思い出す。
あの、楽しかった日々を──
──何が人造人間だよ。何が人間との交友だよ。笑わせやがって……。俺達は何の為に造られたんだよ。人間を守るのが俺達の役割じゃねぇのか……。
ダリシュは重たい身体を動かし仰向けになる。
雨は激しくダリシュの身体を叩くと、ダリシュもその雨に身体を委ねる。
空は真っ黒に曇っており、雨が一つひとつ落ちて見える。
まるで、ダリシュの気持ちを表しているように。
「……梓」
灰色の雲に梓の笑顔が写る。その梓は笑っていた。
その時、梓の顔が消えた。
変わりに黒い一人の人影が映った。
「起きろ」
その声にダリシュは目を細めて見る。
その顔はいつか見た政府の人間の顔だった。
だが、今のダリシュに戦う力は残っておらず、ただその言葉に耳を傾けるだけだった。
すると、政府の人間はダリシュの頬を叩いた。
そこでやっと目が覚めたダリシュはその顔を見つめた。
そう、それは服部十だった。
「お前っ……」
ダリシュは十の顔を見るなり身体を起こしたが、すぐに脱力してしまい、また後ろに倒れこむ。
だが、そんなダリシュの身体を十は支えた。
ダリシュの背中に腕を回し、抱える。
「大丈夫か?」
心配そうな十の顔を見てダリシュはホッとする。
「なんちゅう格好してんねん。あ〜あ、服までベチャベチャ。しゃあないな、立てるか?」
十はそう言うとダリシュの腕を自分の肩に回し立ち上がらせ様とする。
ダリシュもそれに答え、力の入らない足を動かす。
なんとか立ち上がったダリシュを、十はそのまま歩き出す。
ダリシュは消え入りそうな声で聞く。
「何で、俺を……」
十は前だけを向いていて、その目は真剣だった。
「お前、あいつと一緒におったやろ? まぁ、今はあいつはおらんけどな」
「香奈子の事か?」
ダリシュが聴くと十は頷いた。
そして驚く事を耳にした。
「俺はあいつらが憎い。俺の一番の戦友を殺しやがった。しかも、酷い殺し方をした。俺はそんな奴らが許せへん。だから、お前らにつく」
「えっ?」
ダリシュは驚いて目を大きく見開く。そしてあんぐりと口を開けていた。
十の目は真剣だった。
何も考えられないダリシュの頭で不意に思った事が、十は香奈子の事が好きだったという事。
ダリシュはそれに気付くと、心が締め付けられた。
だが、新たな希望の光が近くにあると確信すると、ダリシュの心の中に小さな芽が芽生えた。
「ありがとう……」
ダリシュは小さな声で言った。
114 :
サヤコ
:10/28(日) 17:05:47
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あげ★
115 :
誘惑
:10/28(日) 22:13:54
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*サヤコ*さま
あげ、ありがとございます!
これからも宜しくです♪
116 :
誘惑
:10/31(水) 19:46:19
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「おい、何処に行く気だ?」
肩に担がれたダリシュは十に問いかける。
十は歩きながら答える。
「えぇから。黙って着いて来な」
十はそう言うと細い裏路地に入って行った。
そして、そこを右に曲がると小さなログハウスが一軒、ぽつんと建っていた。
十はその家の扉を開けると中に入っていく。
ダリシュもそれに続いて入ると、中に誰かがテーブルの椅子に腰掛けている。
それは、紛れもなく梓だった。
ダリシュは梓の姿を見ると一瞬にして身体を硬直させてしまった。
今まで離れ離れになっていた為、もう二度と会えないと思っていたからだ。
梓もダリシュに気づくと、持っていたカップを落としそうになる。
「あ、ずさ……。梓なのか?」
ダリシュはゆっくりと一歩一歩梓に近づいて行く。
梓も椅子から立ち上がるとダリシュの元に足を動かす。
「ダリシュ……ダリシュ!」
二人は互いの身体を抱きしめ、きつく抱擁をした。
久しぶりの再会。もう、死んでしまったと思い込んでいた相手。
二人の目からは涙が溢れる。
そんな二人を遠目に見ている十がいた。
「良かった……梓っ! 無事だった」
「お前こそ、心配かけやがって。何も無かったか?」
梓とダリシュは今まであった事を話した。
カイルと出会った事、政府の人間に囲まれた事……。
そして、死のうと思った事。
「そう言えば、何で二人は一緒にいるんだ?」
ダリシュは十と梓が一緒にいる事が気がかりだった。
梓は椅子に腰掛けると、ダリシュも座る様に言う。
「俺が十に出会ったのは、お前とはぐれて3週間経った日の事だった──」
117 :
誘惑
:11/01(木) 23:42:08
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どこを歩いても、自分が何処に行きたいのかさえ分からない。
どれだけ歩いてもダリシュには一向に会えない。
もう財布も底をつき始めている。
食べる事すらままならない状況下で、梓は必死に逃げダリシュを探した。
通信手段も無く、力つき道端に倒れた。
──俺は、もう駄目かもしれない……。
ふと、梓はそんな事を思っていた。
その時だった。頭上から声が降ってきた。
「大丈夫か?」
声の主に顔を上げると服部十が立っていた。
「おまえ……」
消え入りそうな声で梓は返事をすると、気を失った。
そこからは何も覚えていないが、気づけば温かい部屋のベッドで寝ていた。
目を覚ませば十の後姿が目に入る。
梓はゆっくりと身体を起こすと、小さな声で十の名前を呼ぶ。
「みつる……」
十はそれに気づくと、梓の元へ温かいコーヒーを持って行った。
梓はコーヒーを受け取ると一口啜った。
「気分はどうだ?」
「なんとか……」
十の問いかけに梓は小さく答える。
相当、疲れが溜まっているのだろう。
表情は全く無く、血行も悪そうだった。
それから、梓は十と今までの事を話した。ダリシュと別れた事。神父が政府の人間である事。香奈子の死。
十は香奈子が死んだ事を知り驚愕していた。
まだ十には知らされていない様だった。
そこからだろう。
話は進み、十が梓達に着くと言ったのは。
二人は意気投合し、十はダリシュを探しに梓はまだ身体を休める為に家に残った。
そして今に至るのだ。
「そうだったんだ……」
ダリシュは俯くと、表情を暗くした。
そんなダリシュを見てか、十は笑顔を作り、
「お前、腹減ってるやろ? 待っときな。今、飯作ってやるから」
十はそう言うと台所に立ち、料理を始めた。
ダリシュは心の底から、何かが湧き出すのを感じた。
118 :
誘惑
:11/03(土) 19:53:48
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少し気持ちが落ち着いたダリシュは、ベッドの上ですやすやと寝ていた。
そんな中、梓と十は今後の作戦を練っていた。
「これからどないするん?」
「決まっているだろ。あいつらを叩き落とす」
梓の目は真剣だった。
香奈子が死んで以来、梓は何事にも真剣に取り組んできた。
いや、梓は香奈子が死んでから変わった。
性格も人格も──
「それやったら、俺も協力するけど、何か作戦はあるんか?」
「無い。けど、拳はある!」
「なんやそれ……」
性格と人格は変わったものの、中身までは変わっていなかった。
今まで通りの馬鹿丸出しである。
そんな梓を見た十は呆れ返る。
「あほやなぁ。よ〜、それでやってきたわ」
十も呆れるぐらいの馬鹿と出会うのは初めてだと言っていた。
それでも、梓はそれしか作戦は考えておらず何も言わなかった。
それから何時間が経過しただろうか。
ダリシュがやっと起きだした。
「おはよう」
十が声を掛けるとダリシュは小さく頷いた。
まだ、寝ぼけているのか目が完全に開いていない。
十はおはようと言うが、辺りは真っ暗だ。
ダリシュは目を擦り、焦点の定まらないまま立ち上がり、二人のいるテーブルに向かう。
「……」
ボーっとしているダリシュは、ゆらゆらと揺れている。
それを見た十は梓に耳打ちした。
「なぁ、めっちゃ可愛いなぁ。女の子みたいや」
「いっつもの事だよ」
十はもじもじしながら言う。
相当、寝起きのダリシュは可愛いらしい。
だが、梓は見慣れている為、なんとも思わなかった。
「…何?」
小さく聞くダリシュに十は、
「何でもない」
と、笑顔で答えた。
119 :
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:11/05(月) 21:31:21
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3人は家の前の路地で、密かに特訓していた。
羽を無くしたダリシュは、新たに戦闘技術を身に付けなくてはならない。
今までのダリシュは羽から武器を取り出していた。
だが、羽の無い今となっては闘う術が無いのと同じ事。
その為、十に新しく技を教えてもらうのだ。
「ダリシュは何が得意なん?」
「基本的に何でも出来る」
「そうか」
ダリシュの答えに十は腕を組んで考える。
何か良い案が浮かんだのか、家に戻り中から錆びれた剣を持ってきた。
それをダリシュに渡すと十は言う。
「これは、政府のもんなんやけど、古過ぎて誰も使わんさかい俺が持って帰ってきてん。なんか俺にもよう分からんけど、これは主人を見つけると光るらしいわ」
「光る?」
それには梓も不審を募らせる。
「よう分からんけどな、この剣に合った主人をこいつが見つけるらしいんよ。そんで、その主人に合った技をこの剣が作ってくれるんやって」
「へぇ〜」
梓とダリシュは感心した様に頷くと、その剣をまじまじと見つめた。
どこからどう見ても、錆びれた剣にしか見えない。
十はダリシュにその剣を渡した。
「うわっ!」
その瞬間、剣は眩しい程の光を出して光った。
3人は眩しさの余り目を閉じる。
そして、目を開けた時には剣は見違える様な輝きを放っていた。
「これが…さっきの、剣?」
剣は青白く光り、不気味なオーラを出していた。
「剣が光ったていう事は、ダリシュが主人やな」
十はニッコリと笑うと、ダリシュの顔を見る。
ダリシュは恐る恐る剣を持ち替えると、不思議と力が湧いてきた。
「ほな、特訓の続きしよか。まずは、その剣を使って俺と勝負」
「えっ?」
「ダリシュは剣の使い方ぐらい知っとるやろ?」
「それぐらいは知っているけど……」
「なら、やるで!」
やる気の十を他所に、ダリシュは困り果てる。
なんせ、相手は何も武器を持っていないのだ。
そんな中、自分だけが武器を持って闘うのは反則の様な気がして、ダリシュは動くのを躊躇ったのだ。
「俺の事は気にせんでええさかい。言っとくけど、俺は政府の中で一番腕がええんやで」
その言葉を信じ、ダリシュは十に剣を振りかざす。
そうして、3人の特訓は毎晩の様に続いた。
120 :
誘惑
:11/06(火) 21:42:41
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再び、政府の本部前まで来たダリシュと梓は、その高いビルの頂上を見上げる。
目の前には中に進入出来る扉がある。
だが、それには頑丈な警備システムが組まれている。
それを突破する事は容易ではなかった。
梓は、ダリシュを見ると声を掛ける。
「ダリシュ、大丈夫か?」
「…あぁ」
大分、声が引きつっている。
そんなダリシュを後ろから十が背中を軽く叩く。
「緊張せんでええ。俺らがついとるから、お前は出来る事をやったらええんや」
「ありがとう……」
ダリシュの額からは汗が滲み出ていた。
この日、ダリシュにとっても梓や十にとっても大事な日になるかもしれないのだ。
そう、今日は最後の日。カイルとの決着をつける日。
これで自分が死んでしまうかもしれないというリスクを背負って、3人は今、この政府の前に立っているのだ。
「なんか今日は気持ちええ日やなぁ」
十は両手を挙げて大きく伸びをする。
空を見渡せば、限りない青空が広がっていた。
まるで、今日自分が死んでも悔いは無いという様な、すがすがしい気持ちでいる十。
そんな十を羨ましく思うダリシュがいた。
「ほな、時間やし、そろそろ行くか?」
十が合図したのと同時に、ダリシュは唾を呑んだ。
梓がダリシュの肩に手を置くと、ダリシュは梓を見る。
梓は訴える様に大きく頷くと、小さな声でこう言った。
「俺らが死んでもお前は生きろ。お前は──」
ダリシュはその言葉を聞くと、目を大きく開かせて梓に向かい頷いた。
「よっしゃ! ほな、行くで!」
十の合図と同時に3人は扉を目指して駆け出した。
扉の防犯システムを突破すると、警報が鳴る。
それを合図に何処からともなく、政府の人間が飛び出してきた。
3人は前方にある、3本の分かれ道をそれぞれ進んで行く。
「おらぁぁぁぁぁ!」
十は豪快に政府の奴らを倒していくと、奥に進んで行く。
梓も腰に隠し持っていた剣を取り出すと、相手に突き刺していく。
ダリシュも同じ様にしていく。
3人は別々の道を歩み出した。
そう、これが最後の別れだとしても──
121 :
誘惑
:11/07(水) 16:41:14
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ダリシュは目の前に広がる、長い廊下を走る。
周りを白い壁で囲まれ、見渡す限り白で包まれていた。
そんな中をずっと走っていると、精神が可笑しくなりそうだ。
──これが、俺に出来る最大の事。
ダリシュは自分の胸に手を当てる。
そこには、鼓動する核が動いていた。
自分が生きている事を確認すると、一層力が湧いてきた。
目の前にある、大きな扉。
あそこにカイルはいるのだろう。ダリシュは全速力でそこに向かう。
扉を開けると、そこは白い部屋だった。
その中心にはカイルが背中を向けて立っていた。
扉が閉まると、カイルはダリシュの方を向く。
「やっと来たんだ」
ニコリと笑うカイルの笑みには、どこか悲しげな表情が窺える。
だが、ダリシュはそんな事には気にせず、息を整える。
カイルはダリシュの息が整った所で、後ろに用意されているソファに腰掛ける様に言う。
だが、ダリシュはそれを断り、真剣な眼差しでカイルを見つめる。
「お前は、一体、何が目的でこんな事をしているんだ?」
ダリシュの質問にカイルは答えず、もう一度背中を向ける。
ダリシュはもう一度言う。
「おい、聞いてるのか? お前は、何でこんな事をしているんだ?」
「お兄ちゃんはさ、覚えてない?」
「はぁ?」
ダリシュの質問には答えず、カイルは話を進める。
「覚えるって何をだ」
「お兄ちゃんはさ、研究所で生まれたんだよね」
「…そうだよ」
ダリシュの返事を聞くと、カイルは部屋の明かりを消す。
慌てたダリシュは剣を取り出す。
構えるダリシュにカイルは剣を制する様に言う。
「僕は何もしないよ。だから、剣をおさめて」
柔らかな口調に殺気は感じられず、ダリシュはその言葉を信じた。
だが、いつ襲ってきてもいい様に剣はすぐ近くに置いておく。
しばらくすると、部屋に灯りが戻り、その眩しさでダリシュは目を瞑る。
そして、目を開けた瞬間、思わぬ光景が目に映る。
「何だよ、これ……!」
122 :
誘惑
:11/07(水) 21:21:06
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目を開けたダリシュは驚愕する。
そこにはあの時の光景と同じ、大きなカプセルに緑色の液体が入っており、その中には人造人間が入っている。
カプセルの中は下から泡が幾つも出てくる。
人造人間は皆、眠っている様だがこうして並んでいると気持ち悪くなる。
ましてや、自分もその中の一員だったと考えると、恐ろしくなる。
「これ…は」
「僕達が研究している人造人間だよ。でもね、普通の人造人間は完璧に作れる様になったから、今度は新しい人造人間を造ってるんだ」
「新しい人造人間?」
カイルは一つのカプセルの前に立つと、それを見ながら話す。
「そう、新しい人造人間。生きた人間を人造人間にする事」
「!」
それを聞いてダリシュは驚きを隠せない。
目を見開いてカイルを見つめる。
カイルはカプセルから離れると、ダリシュに近づく。
「お兄ちゃんは、この銀時計、持ってるよね?」
カイルはそう言いながら、ポケットの中からダリシュの持っているのと全く同じ銀時計を出してきた。
ダリシュもポケットから銀時計を取り出し、カイルのと見比べる。
全て同じだった。
形も色も、紋章も全てが一緒だった。
「これ、何か知ってる?」
カイルは不思議な物を見る様な目で銀時計を見る。
「俺達、人造人間の証だろ」
「そう、人造人間の証。それは、本当?」
「何を言っているんだ」
ダリシュにはカイルの言っている事が分からず、ただ首を傾げるだけだった。
ダリシュは不安になってしょうがない。
教皇ではそう教わったのだ。
これは人造人間の証だぞ、これは絶対に手放してはならない、と。
「お兄ちゃんは僕の言う事を信じてくれる?」
「一体、何が言いたいんだよ」
カイルは俯きながら、少し言うのを躊躇う。
とても言いにくそうに……。
「僕等は生きてた時に造られた、人造人間だよ?」
123 :
誘惑
:11/07(水) 21:52:12
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「な、何言ってんだよ? 生きてた時に造られた? 俺が?」
ダリシュは訳が分からないという様に、カイルを見つめる。
カイルはダリシュの顔を見れず、俯いたままいた。
そして、小さく喋り出した。
「お兄ちゃんは、本当に覚えてないの? 僕等は、本当に兄弟だったんだよ? 思い出して、あの時の事を。あの、電車事故があった時の事を」
カイルがそう言うと、ダリシュの脳に何かが入ってきた。
──電車事故? いつの?
深く考えていると、カイルがダリシュの銀時計を首にかけた。
その瞬間、走馬灯の様にダリシュの頭の中にあの日の事が蘇ってくる。
全てを思い出したダリシュは後ろにある、ソファにもたれ掛かった。
そして、頭を抱えて首を横に振る。
「嘘だ、嘘だ!」
「嘘じゃないよ。お兄ちゃん」
カイルはダリシュの前に立つと優しく言葉をかける。
「そう、それは僕達が12歳の時だった。たまたま、遊園地に遊びに行こうと、電車に乗った時、その時事件は起こった」
カイルは懐かしむ様に、遠くを見つめながら話す。
ダリシュも一つひとつを思い出す様に、頭の中にその時の光景を思い出す。
「運転手のミスで、ブレーキが効かなくってカーブが曲がれなかった。そして、そのまま脱線して近くのビルに突っ込んだ。僕等は1両に乗ってて一番被害が大きかった。僕は、お腹と右足の太股に鉄パイプが刺さって、お兄ちゃんは両足が無くなっていた」
その時の光景が鮮明に映し出される。
──そうだ、俺はあの時、無意識にカイルを探していた。
「その時、お兄ちゃんは足が無いのにも関わらず僕を呼んでいたよね。僕はその時、意識がハッキリしていなかったから何も覚えていなんだけど、お兄ちゃんの顔はハッキリと覚えてる。あの、頭から血を流していて、恐怖に怯えた顔を」
「…それで、俺達は研究所に運ばれた……」
「そう、一旦は病院に運ばれたけど、医者ももう無理だろうと言って政府に僕等を渡したんだ。そこから研究所に運ばれて、結果この有り様だよ。酷いよね、この世界は。死にそうな患者は簡単に切り捨ててしまう。弱い奴は全てを抹消してしまう」
カイルはまた、カプセルの前に戻ると、愛しそうに中の人造人間を見つめる。
まるで、あの時の自分を見ているかのように。
「実験台にされたこの身体は、いつの間にか自分の物では無くなっていた。気がつけば、他人の身体だった。というよりも、自分の身体という意識が全く無かった。自分は誰で、どうして此処にいるのか、此処はどこなのかさえ分からなかった。あの時の記憶が全て消えていた。覚えているのは自分の名前ぐらいだった」
俯くダリシュは、目に涙を溜めていた。
それは零れる事は無いが、あの悲しき日々を思い返すのには十分だった。
「その時、お兄ちゃんはもう完成されていた。僕はカプセルの中からいつもお兄ちゃんを見てたよ? 研究所の奴らもお兄ちゃんは最高の出来だって、ずっと言ってた。だけど、お兄ちゃんはあの時の事を何も覚えていなくて、たまたま研究所の奴が持っていた名簿から、お兄ちゃんの名前が付いたんだよ」
「…じゃあ、俺の名前は、これじゃないのか?」
顔を上げたダリシュの顔は暗く沈んでいた。
「ううん。その名は本当のものだよ。ダリシュ・D・コンバット。僕の自慢のお兄ちゃんの名前だよ」
カイルの目にも涙が滲んでいた。
やっと解り合えた兄弟。ずっと探し続けていた兄。
「見つけたよ、お兄ちゃん……」
カイルはふらふらとした足取りでダリシュに近づくと、ダリシュはしっかりとカイルを抱きしめる。
「カイル……カイル!」
二人は抱き合って泣いた。
大粒の涙を流しながら、ずっと泣いていた。
二人の泣き声だけが、白い部屋の中に響いた。
124 :
誘惑
:11/07(水) 22:49:36
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二人はソファに腰を下ろして、今までのあらましを全て話していった。
「今の研究所の目的は生きた人間から人造人間を造る事。この開発は未だ、世界では数か所しか成功した実例は少ない。だけど、お兄ちゃんと僕を含めた完成品は、立派な殺人鬼なんだよ」
「殺人鬼?」
「そうだよ。お兄ちゃんは、どうして羽が生えていたの?」
カイルの質問にダリシュは首を捻る。
「…分からない」
「あのね、生きてて造られた人造人間は、世界を滅ぼす危険なものなんだ。だから、お兄ちゃんに羽があるように、僕にも同じ羽がある。他にも、お兄ちゃんと仲の良かった神父、メルス・オートも同じ、生きてた時に造られた人造人間なんだよ」
「神父が!? 本当かよ……」
ダリシュはその真実に、少しの間頭の機能が停止したようになった。
あれだけ、ダリシュ達を助けてくれた、明るい神父が造られた人間だとは知らなかった為、その事に大きなショックを受ける。
「そうだ、完成した時、研究所の奴がこんな事言ってなかった? 『25回目にしてやっと完成した』って」
「…言っていた様な気がする」
「それは、25人目の人造人間が出来たって事なんだよ。だから、後の24人もこの世界の中にいるんだ。今は、捕まっているかもしれないけど……。この、人造人間削除隊を作ったのもメルスなんだ」
「神父が……何故?」
「メルスは自分が人造人間だというのが嫌なんだ。だから、世界に散らばった人造人間を回収して、殺す計画を立てたんだ。だけど、僕はお兄ちゃんを殺させたくなかった。だから、僕はここの最高責任者になったんだ。そうしたら、お兄ちゃんを捕まえても僕が殺させない様に出来るから」
「…カイル」
ダリシュはカイルの思いに涙が出そうになった。
──カイル……。俺の、カイル。
「話は戻るんだけど、どうして僕達が世界を滅ぼすのか、これは僕にも分からないんだけど、研究所の奴らは僕達の心臓部に核を埋め込んだ。普通の人造人間にも核は入っているけど、僕達のは一味違う。それは、強さだ」
「強さ……?」
カイルはダリシュの目を見ながら頷く。
その眼差しはともて真剣だった。
「うん。その核は僕達の意識を乗っ取って支配するんだ。そして、その核が一度暴走をしたら、止める方法なんてこの世には存在していない。だから、僕達は世界を滅ぼす、或いはこの地球を壊す恐れがあるんだ。だから、回収するっていうのも一理あるんだ」
カイルの説明に納得するダリシュ。
「なら、俺達はこの世に存在してはいけないんだな。教皇で教わった人間との交友も嘘だったんだな」
「うん」
カイルが力強く頷くと同時に部屋の扉が開いた。
そして、現れたのは神父だった。
「あら、カイルさん。まだ、いたの? それより、横にいるのはダリシュ・D・コンバットですよね? 早く、始末して下さいよ。私はあなた達と違って、強いんですから。いくら、貴方が最高の出来だとしても……ね」
神父は不敵に笑うと、腰にかけていた銃を出しカイルの右肩を打った。
カイルはその反動で後ろに倒れ込む。
ダリシュは倒れたカイルに近づくと、傷口を押さえる。
「用の無い責任者は居てもいなくても一緒です。消えてもらいます」
そう言うと、神父はまた銃を構える。
125 :
誘惑
:11/07(水) 23:07:48
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二人が危険な目に合っている時、十は必死になって逃げていた。
流石の十でも、何十人という政府の人間には敵わなかった。
いくら倒しても追ってくる、政府の奴ら。
それは終わりを知らない川の流れの様だった。
「はっ、はっ」
十の息は荒く、体力も落ちてきた。
すぐ後ろには政府の人間が迫ってきている。
十は右に曲がる。が、そこは行き止まりになっていた。
──閉じ込められた……。
もう十には逃げ道など無かった。
後ろは壁、前を向けば政府の奴ら。
どこに行っても蜂の巣状態だ。
十は諦めた。
──もう、終わりにしよう。
十は持っていた武器を全て投げ出すと、そのまま座った。
そして目を閉じる。
瞼の裏に香奈子の笑顔が映し出される。
その笑顔はまるで天使の様な、柔らかな笑顔だった。
──香奈子。悪ぃな……。俺も、もうすぐそこに逝くさかい。
政府の一人は剣を大きく振りかざすと、十目掛けて大きく振り落とした。
そして、十の意識はそこで途切れた。
その頃、梓も必死になって逃げていた。
階段を昇ったり降りたりしているうちに、政府の奴等を上手く撒いたようだ。
「ダリシュ……待ってろよ」
息を荒げながら、ダリシュの事を思う。
自分の命などどうでもいいように、他人の事を心配する梓。
もう、梓の服は血だらけになっていた。
何人もの人間を切ってきたのだ。
返り血を浴びて、白のTシャツは真っ赤に染まっていた。
「待っていろ…よ。死ぬんじゃねぇよ」
梓は重い足取りでまた、ゆっくりと歩き出す。
ダリシュのいる、部屋に辿り着くまで梓は歩き続けた。
その間、何人もの政府の人間に出くわした。
だが、歩みを止めずに梓は斬っていく。
神父は銃を打ちまくる。
既に床には銃を打った痕跡が残っていた。
カイルはなんとか自分の治癒力を使って傷口は防いだものの、動きは鈍くなっていた。
「どうしたんですか? 逃げ回ってばかりでは面白くありませんよ?」
神父は不敵に笑いながら銃を打つ。
逃げ回るダリシュとカイルにむけて。
カイルはポケットの中から小さな瓶を取り出すと、それをダリシュに渡す。
「お兄ちゃん、ここは僕に任せて。だから、早くこれを飲んで。これを飲めば羽がまた生えるから。そして、最上階の赤いボタンを押して! それを押せばこのビルは跡形も無く吹っ飛ぶから。早く!」
「…カイル」
ダリシュはカイルから瓶を受け取ると、カイルの名を小さく呼んだ。
カイルはダリシュに笑顔を作ると、大きく頷いた。
ダリシュはカイルを信じて、駆け出した。
神父はそれを追う様に銃を向けた。
だが、それをカイルが止めた。
「メルス、お前の相手は僕だよ」
「それは楽しい」
神父は不気味に笑うと、銃を両手に持ち打ちまくった。
その激しい銃声にダリシュは耳を塞ぎたくなったが、気にせずカイルから受け取った瓶の蓋を開け、中に入っている小さな粒を飲んだ。
──カイル、カイル! 待ってろ。俺が助けてやるから!
126 :
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:11/08(木) 18:35:48
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その時、カイルのいる部屋から凄まじい轟音が鳴り響いた。
ダリシュはその音を聞くと、足を止め無意識のうちに部屋に戻っていた。
そこで見た光景は、部屋は跡形も無く崩れ去りその一角にカイルが立っていた。
「カイル、大丈夫か!」
ダリシュは入り口から叫ぶが、カイルは何も返事をしない。
それどころか、少し様子がおかしい。
不思議に思ったダリシュはカイルに近づこうと足を踏み入れたが、そこで神父の声が聞こえた。
「今、近づけば貴方は死にますよ?」
その声にダリシュは身体を止める。
よく見ればカイルの目は真っ赤に染まり、口から零れる様に生えた鋭い牙。
まるで、今までいたカイルとは何もかもが異なっていた。
神父はカイルの隣に立つと、ダリシュに銃口を向けながら話し出す。
「貴方の弟は、今、完全な殺人兵器になりました。もう、誰にも止められはしない」
「……!」
ダリシュは握りしめていた拳を更に強く握る。
「さぁ、楽しい死合を始めましょう」
神父はそう言うとダリシュに向かって銃を発砲する。
ダリシュはそれを交わすが次の弾が飛んでくる。
一旦、部屋から出たダリシュは床に落ちている何かに躓く。
そう、それは十に貰った剣だった。
ダリシュはそれを手に取ると、剣は勢いよく光り出した。
剣は眩しく輝くと、紅色に染まる。
「待ちなさい!」
後ろから迫ってくる神父に立ち向かうダリシュ。
剣を大きく振りかざし、神父を切り裂く。
だが、神父は軽く避けると、また銃を発砲した。
ダリシュはそれを剣で弾くと、神父に襲い掛かる。
紅色に染まった剣は大きな炎を出しながら光り出す。
一瞬、神父は目を眩ませたが、直ぐに体勢を立て直し銃を打つ。
「さぁ、殺りなさい」
神父は後ろに立っているカイルをダリシュの前に差し出すと、カイルの後ろに隠れる。
そしてニヤリと笑うと銃の弾を替える。
その間、ダリシュはカイルと戦っていた。
実の弟を気ずつける訳にはいかず、油断していたダリシュにカイルの一撃が当たる。
「がはっ!」
ダリシュはその場に倒れこむと、剣を持ち変える。
そして素早く立ち上がると、カイルに剣を構える。
大きく振りかぶりカイルの肩の部分を狙う。だが、カイルは倒れる事なくそのまま立っていた。
荒々しい息を上げるカイルは不敵に笑う。
そう、ダリシュはカイルを傷つけまいと峰打ちをしたのだ。
ダリシュは背中から羽を生やして、宙に浮くとそのまま長い廊下を飛び出した。
カイルが言った最上階を目指して。
127 :
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:11/08(木) 18:48:43
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飛び続けていると、目の前に一人の人影が現れた。
ダリシュは持っていた剣を構えると、慎重にその相手に近づく。
それは梓だった。
「梓っ!」
「ダリシュ!」
感動的な再会の場面であっても、後ろから凶暴化したカイルが迫ってくる。
ダリシュは梓の手を引くと、梓が来た道を戻り出した。
「ダリシュ、これは一体何なんだ!?」
状況を把握できない梓は、ダリシュに問いかける。
だが、ダリシュは答えようとはしない。
それ所か、カイルの追って来るスピードが速くなったのだ。
否、ダリシュのスピードが落ちたのか、どちらにせよ梓達には不利な状況だった。
「やばい……追いつかれる!」
「…梓は逃げて。ここは、俺が何とかする!」
ダリシュは力強く言うと、梓の手を離す。
そして、迫って来るカイルに剣を構える。
「ダリシュ……」
「いいから、早く逃げろ!」
梓はその言葉に弾かれる様に走り出す。
カイルはふー、と息を吐き出すと唇の周りを舐める。
そして不気味に笑うとダリシュに襲い掛かる。
カイルの黒い羽からは無数の羽が刃の様に飛んできてダリシュを襲う。
その横を神父が通り過ぎ梓を追う。
ダリシュはその神父を横目で見ながら、カイルの羽を払い落とす。
「やめろ……! やめるんだ!」
強く叫んだ所で何かが変わる訳でもなく、カイルの耳にはその言葉は届いていなかった。
ダリシュは飛んでくる羽の間を、縫うようにしてカイルに近づくとカイルの首元に剣を付きたてる。
だが、カイルはびくともせず、不敵に笑い続けるだけだった。
ダリシュは一旦引くと、もう一度剣を構え直す。
油断をしていたら自分が殺されてしまう。
そう思ったダリシュは、カイルに容赦なく剣を突き刺していく。
──ごめん。カイルっ!
邪念を払い、ダリシュはカイルの腹を深く突き刺した。
すると、カイルはその場に倒れ込み、動かなくなった。
ダリシュは零れ落ちそうな涙を拭うと、梓の後を追った。
128 :
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:11/08(木) 19:10:42
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──くそっ! 何処まで追いかけて来るんだよ!
梓は神父に追われながら、必死で逃げ回る。
相手は銃を持っている為、小さな小刀では役に立たない。
梓はダリシュが来るまでの間、ずっと逃げ回っていた。
「逃げ回ってばかりでは、楽しくありませんよ?」
狂った様に奇声を上げる神父の目は、黒く濁っていた。
「君は人間だ。だけど、人造人間と関わってい罪はともて重い。何より、それはこの世界において、最も重い罪です。お分かりになっているはずですよ」
神父は銃を発砲させながら、梓に言う。
だが、梓はそれを聞こうとせず、一旦足を止めると方向を変え、神父に立ち向かう。
小さな小刀を構えると、神父目掛けて振り回す。
神父は嘲笑う様に梓の攻撃を交わしていく。
その時、後ろからダリシュの声が響いた。
「梓!」
梓はその声に振り向くと、そこにはダリシュが立っていた。
その一瞬の隙を狙って神父は梓を狙う。
梓は素早くそれに反応したが、一歩遅かったせいか、弾が梓の左足太股に当たった。
「ぐはっ!」
倒れこむ梓にダリシュは駆け寄る。
梓は足を押さえて、苦しそうにもがいていた。
「大丈夫か、おい!」
ダリシュの声は聞こえているのだろうが、喋ろうとはしなかった。
その時、頭上から降ってくる神父の声にダリシュは顔を上げる。
「弟はちゃんと殺したのですか?」
神父は口角を上げると、ダリシュの脳に銃を突きつける。
その時、昇って来た階段の入り口にカイルが立っていた。
「やぁ、殺人兵器。この二人をさっさと始末しなさい」
神父はそう告げると、カイルは身体を動かす。
「あの殺人兵器の核を少し弄りましてね。私の言う事しか聞かないのですよ」
呟く様に神父は言うと、ダリシュ達から離れた。
そして遠くの方から眺める様に、弾を入れ替えた。
カイルの羽が大きく開くと、数枚の羽が飛び出した。
ダリシュは自分の羽を広げ、梓と自分の頭を隠す。
だが、羽はダリシュ達には当たらず、変わりに神父の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃーーーー!」
その声を聞いたダリシュは顔を上げ神父を見ると、神父の身体に無数の羽が刺さっていた。
神父はそのまま後ろに倒れると、動かなくなった。
ダリシュはカイルを見ると、痙攣した様に震えていた。
「お、にい……ちゃ、ん……。逃げ……て」
蚊の鳴く様な声でカイルはそう言うと、また目の色が変わった。
ゆっくりと近づくカイルに、ダリシュは梓の足の応急処置を済ませると、梓の腕を自分の肩に回し歩き出す。
その時、倒れた神父が起き出し、身体に刺さった羽を取っていく。
神父は人が変わった様に、口から大量の血を流しながら怒鳴る。
「貴様! 何をしているんだ! さっさと奴を殺せと言っているだろうが!」
ダリシュはその隙に階段をまた昇り始めた。
129 :
誘惑
:11/08(木) 19:29:35
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カイルは神父に突き飛ばされ、そのまま横に倒れる。
その衝撃で、また目の色が変わり、元の色に戻った。
「おに…い、ちゃん……」
だが、それもつかの間の事。
またカイルの目は真っ赤に染まり、荒々しい息と共に立ち上がり、神父の後を追いかけた。
梓を担いだままのダリシュは、相当息が切れていた。
梓の足も大分血が流れ出していた。
後ろからは神父の足音が近づいて来る。
どこまで昇っても途切れない階段に体力を奪われ続けるダリシュと梓。
「梓……もう少しだから。踏ん張れ!」
すると、開け放たれた大きなホールに出た。
その中心には赤いボタンがあった。
──あれを押せば!
ダリシュは梓を近くの壁に持たれさせると、急いでボタンの方へと駆けて行く。
「待ちやがれ!」
その時、神父が上がってきたのだ。
後ろにはカイルがいた。
神父も大分血が流れていた。
大きなホールの床に、神父の血が止めどなく流れていた。
「そのボタンを押すんじゃねぇ……」
神父はそう言ってダリシュに銃を構える。
だが、ダリシュはびくともせずボタンに手をかける。
その時、神父の銃から弾が飛び出した。
ダリシュは身を縮めて弾に背を向ける。
だが、ダリシュに弾は当たらなかった。
そう、梓がダリシュの盾となり弾を受けたのだ。
弾は梓の心臓部を貫通しており、大量の血を流していた。
ダリシュは梓に駆け寄ると、梓を抱き抱える。
「梓、梓! おい、しっかりしろ!」
ダリシュの目から涙が零れる。それは、梓の頬に落ちていく。
梓は震える手を必死に上げて、ダリシュの手を握る。
だが、その手には力が入っておらず、ダリシュは梓の手を強く握りしめた。
「ダリシュ……」
「梓……」
「泣くんじゃねぇよ……。男だろ」
梓はダリシュに向けて笑顔で言った。
本当は、こんな笑顔は出来ないはずなのに──
「梓、死ぬなよ。俺が、俺が助けてやるから!」
そう言った時、梓は柔らかく微笑んだ。
最後の別れを惜しむ様に。
「ダリシュは、最高の友達だった……。それは、今でも変わんねぇ」
消え入りそうな梓の声にダリシュは耳を傾ける。
「俺は、先に逝くけど、お前はまだ生きてろよ。いいな、俺の分まで生きろ……よ」
梓はそう言うと静かに目を閉じた。
まるで眠るかの様に、静かだった。だが、完全に息の根は絶え、心臓は動いていなかった。
認めたくないが、梓は死んだのだ。
「梓! 梓ーーー!」
ダリシュは大粒の涙を落としながら、梓を抱きしめる。
今まで一緒になって闘ってくれた戦友を、ダリシュにとって初めての友達をこんな形で失うのは、ダリシュにとって耐え切れないものだった。
130 :
誘惑
:11/08(木) 19:53:58
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ふらつく足でダリシュは立ち上がると、キッと神父を睨む。
神父はニヤリと笑うと、ダリシュに向けて発砲した。
弾はダリシュの右肩に命中したが、びくともしなかった。
それよりも、ダリシュは神父の方に歩み寄る。
だが、その前をカイルが立ちはだかる。
ダリシュは俯いたまま言った。
「カイル、どけ。どくんだ!」
だが、カイルにその言葉は通じず、勢いよく襲いかかる。
ダリシュは先ほどの闘いで剣を置いてきてしまい、今ある物は自分の羽しかなかった。
ダリシュは羽を広げると、チャクラムと一言言った。
すると、羽から大量の羽の輪が飛んで行く。
カイルはそれを交わすと、ダリシュと同じ様に羽から黒い羽の刃を出す。
その間、神父はダリシュに向けて銃を打つ。
何発も何発も。ダリシュの羽に命中していても、ダリシュは何も感じなかった。
今は、怒りでしか動いていなかった。
ダリシュは羽から剣を取り出すと、それをカイルに向ける。
カイルも同じ様に自分の羽から黒い剣を取り出すと、ダリシュと剣を交える。
──カイル、目を覚ませ!
ダリシュは、床に落ちていた欠片に躓き、足を滑らせてしまった。
その反動で後ろに飛ばされ、肘を着いた所にボタンがあった。
不覚にも、肘でそのスイッチを押してしまった。
その瞬間、一階部分から大きな爆発音が響き渡り、振動が最上階まで響く。
「何だ!? まさか、そのボタンを押したのか!」
神父は慌てた様に言うと、カイルに命令をする。
「早く殺ってしまえ!」
カイルはダリシュに近づき剣を振りかざす。
その目には涙が溜まっていた。
ダリシュは体勢を立て直すと、窓際に追い込まれる。
だが、不思議と覚悟は決まっていた。
涙を流すカイルに殺されるのも悪くない、と──
爆破の振動で窓ガラスが全て割れる。
追い詰められたダリシュは、カイルに剣を向ける。
その時、カイルの動きが止まった。
「お兄ちゃんは逃げて。後は僕が何とかするから」
カイルの目は元に戻っており、暴走も何とか収まった様だ。
自力で自分を制御したカイルは、振りかざしていた剣を下ろす。
「お兄ちゃんは生きてよ。最後の人造人間として。お兄ちゃんは嫌かもしれないけど、僕達が生きていた証にしてほしいんだ」
カイルはそう言うと、涙を流し始める。
ダリシュも剣を床に落とすと、カイルを見つめる。
「お兄ちゃんといた事はずっと忘れないよ。僕はお兄ちゃんといた時が、すごく幸せだった。お兄ちゃんが笑っていると僕も嬉しくなる。だから、笑ってよ、お兄ちゃん。ずっと、これからは、笑っててよ」
涙ながら言うカイルはポケットから、銀時計を取り出した。
「これ、お兄ちゃんにあげる。お母さんとお父さんが買ってきてくれた、兄弟の証。僕は忘れないよ。あの、楽しかった日々を」
ダリシュの目にも、いつの間にか頬を伝う涙が流れていた。
カイルはダリシュの手に銀時計を渡すと、そっとダリシュを後ろに押した。
ダリシュは吸い込まれる様に窓から落ちていく。
「…ばいばい、お兄ちゃん。ありがとう」
涙で濡れた顔で、カイルは笑顔を作り、最後の別れにした。
もう2度と会う事のない、兄にむけて。
落ちていく中ダリシュは必死に手を伸ばす。
だが、カイルに届くことなく、落ちていく。
「カイルーーーーー!」
131 :
誘惑
:11/08(木) 20:24:54
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ダリシュは落ちていく中、壊れる政府のビルを見つめていた。
そして、自分の羽を広げゆっくりと着地する。
少し離れた場所でそのビルを見ると、跡形も無く無残な姿をしていた。
ダリシュはカイルの渡した銀時計を、そっと服の中にしまう。
数分がすると、警察が駆けつけた。
ダリシュは見つからない様に遠くへ逃げると、一息ついた。
すると、涙が止めどなく溢れてきた。
今までの辛さが一気に押し寄せてきたのだ。
「あずさ……カイル……。香奈子、十……」
銀時計をぎゅっと握りしめてダリシュは泣いた。
もういない奴の名を呼んだ所で、戻って来ないのは分かっている。
だけど、呼ばずにはいられないのだ。
この、悲しみを誰かに打ち明けたいが、ダリシュには誰もいなかった。
頼れる人がこの世から居なくなってしまったのだ。
いくら、声を押さえても止まらない、悲痛な泣き声。
とどまる事を知らない、泉の様に湧いてくる涙。
どれだけ想っても、還る事のない人達。
暗く沈んでいく夕日が連れてくる、絶望。
ダリシュの足取りは、いつの間にか一緒に暮らした梓の家に向いていた。
そう、初めてダリシュと梓が出合った家。
ダリシュはリビングのソファに座ると、今までの日々を思い出していた。
楽しかった事、嬉しかった事、悲しかった事、全てが昨日の様に思えてくる。
梓と喧嘩して、香奈子の料理を食べたテーブル、隣に引越してきたカイルと一緒に学校に行った道。
全てが懐かしい思い出となって蘇ってくる。
ダリシュは次に梓が用意してくれた自分の部屋に入る。
そして、ふかふかのベッドに寝転がる。
ここでダリシュは、いろいろな事を思い出していた。
──そういえば、ここで梓と雑魚寝した事あったなぁ。
ダリシュは頬を綻ばせると、梓の笑顔を思い出した。
日は昇り、そして沈んでいく。
何も変わる事なくまわり続ける。
132 :
誘惑
:11/08(木) 21:53:15
HOST:nthygo032227.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
月日は流れ、街にもやっと平和が訪れた。
破損した政府のビルは、建て直される事なくそのまま廃墟となった。
政府は人造人間の研究を止め、国の為に動くと誓った。
遠くの方で教会の鐘が鳴る音がする。
それは世界の始まりを告げる合図なのか、それとも、世界の終わりを知らせる合図なのか。
どちらにせよ、その鐘の音は広い街に響き渡った。
流れる月日の中で、人々はあの日の出来事を忘れていってしまう。
そう、人造人間と政府の激しい闘いの事を。
街は平穏に過ごす中、陽の当たらない暗い世界では、またもや人造人間の開発がされていた。
壊れた政府のビルに、人造人間の全てがそこにあり、今では無くなってしまった。
だから、独学で研究しようとする者が増えだしたのだ。
風吹く砂浜に、一人の男が立っていた。
沈みゆく夕日を眺めながら、ぼんやりと海を見渡す。
波は寄せては引く、それを繰り返してばかりいる。
止まる事はない、自然の流れ。
砂浜を歩くダリシュの足跡を、波が消していく。
ダリシュは潮風に髪を揺らしながら、あの日の出来事を思い返す。
そうだ、俺は皆の支えがあったから、多くの犠牲者を出したから、今を生きていられるんだ。
最初は嫌だった、自分が人造人間である事が。とても、悲しくて、死にたいと思った事は何度もあった。
そう、あの闘いの日々でも、思った事は何度とあった。
だけど、そんな時、いつも支えてくれたのが皆だった。
香奈子はいつも、美味い料理を作ってくれた。
手をぬいた時なんて1度もなかった。どんなに疲れていても、それだけはちゃんとしていた。
俺は、香奈子の作る飯が大好きだった。
けど今となっては、それは思い出の中での味でしかない。
俺は、本当に悪い事をしたと後悔してるよ。
もう2度と香奈子の飯を食えない事に。
そういえば、十にも迷惑かけたな。
十は言葉にはしなかったけど、香奈子を事を想っていた。
だけど、そんな二人を離れ離れにしてしまった。
本当に悪かったと思う。挙句、十は死んでしまった。
俺は、本当に馬鹿な奴だよ。
神父──
俺は、神父にいつも助けてもらった。辛い時、教会に行けばいつも笑顔で迎えてくれる。
俺は、そんな神父が大好きだった。
例え、政府の人間だったとしても、同じ人造人間だから分かり合える何かがあると思っていた……。
ダリシュは、暮れ行く夕日を見つめながら、遠い昔を思い出す。
133 :
誘惑
:11/08(木) 22:09:22
HOST:nthygo032227.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
俺の弟、カイル。
お前との記憶は殆ど無い。けれど、お前といた日々が一番長いと思う。
短い時間の中で、お前は俺を必死に探していた。
そんなお前を、俺は分からずにいた。寧ろ、探さない様にしていた。
お前の存在を認めたくなかったんだ。自分で言うのもあれだけど、哀れだと思うよ。お前に気付けなかった、俺は。
羽を使う時の声もカイルだったよな。
いろいろと、お前には助けてもらってばかりだったな。本当は、俺が助けてやらないといけないのにな。
本当、馬鹿な兄だよな。カイル、笑ってくれ……。
そして、梓。
梓には、たくさん迷惑をかけたな。
もう、何度言っても言い足りないぐらいだよ。
いつも梓には助けてもらって、俺に生きる事の意味を教えてくれた。
そう、あの時のあの言葉。俺は今でも覚えてるぜ。
『俺らが死んでもお前は生きろ。お前は生きなきゃいけねぇんだよ。なっ、相棒』
笑顔で言ったお前の言葉は、今でも俺の生きる原動力になっている。
俺は何も出来ないのに、お前は俺の事を認めてくれた。
相棒≠セと言ってくれた。俺は、本当に嬉しかった。
だけど、お前が死んでからの毎日は退屈だよ。
無理な話だけど、戻ってきてくれよ、俺の傍に。
お前の笑い声を聞かせてくれよ。
ダリシュは、真っ赤に染まる夕空を見上げると、梓の顔を思い出す。
そして、小さく呟いた。
「ごめんなぁ……」
幾ら謝っても、お前は許してくれないと思う。
だけど、俺は一生をかけてお前らに償いたいんだよ。
例え、この言葉がお前に届いてなくても、俺は謝りたい。
お前がくれたこの命をかけて──
生きる意味を教えてくれた、お前に向けて、俺は謝りたい。
お前に貰ったこの命は無駄にはしない。絶対に!
時は回り続ける。
止まる事は無い──
そして俺は、お前達の為に生きる。
永遠とも言える時間の中で、永遠とも言えるこの命ある限り、俺は生きよう。
季節がいくら巡ってこようと、俺は忘れない。
お前達と過ごした日々は、忘れない。
俺は生きよう。
この果てしなく続く空の下で──
fin.
134 :
誘惑
:11/08(木) 22:17:39
HOST:nthygo032227.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
あとがき
今まで、読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました。
皆様のおかげで、無事、完結する事が出来ました。
長いようで短い7ヶ月は、本当に私にとって有意義なものになりました。
これも、皆様の応援があったからこそ出来たものです。ありがとうございます。
この作品は、私にとって1番の力作になりました。
今も2作の小説を書いています。
『花想蓮華』と『錬金白書』というものを書いています。
両方とも一般にあるので、是非、お暇でしたら読んでみて下さい。
それでは、長いお付き合いでしたが、今後とも誘惑を宜しくお願いします。
また、会える日を心より待ちわびております。
誘惑
135 :
サヤコ
:11/08(木) 22:56:56
HOST:07001160945708_af.ezweb.ne.jp
完結、おめでとうございます(^O^)/
とても面白かったです☆
最後感動しました(*哀vдv`*)
これからも頑張って下さいね(・ω・)/
応援してますo(・ω・´o)
136 :
誘惑
:11/08(木) 23:18:14
HOST:nthygo032227.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*サヤコさん
いつも、サヤコさんにはお世話になりました。
本当、今まで読んで頂き感謝いたします。
良い作品が書けるか分かりません、頑張ろうと思います。
どうぞ、宜しくお願いします。
137 :
KY
:11/19(月) 22:19:36
HOST:07022410913744_ei.ezweb.ne.jp
初めて読みましたが、とっても楽しかったです!
今度暇があったら、他の作品も見たいと思います。
これからも頑張って下さい!
138 :
誘惑
:11/19(月) 22:26:51
HOST:nthygo094159.hygo.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp
*KYさん
あっ、ありがとうございます。
楽しかったですか? それは、良かったです。
はい、いつでもお待ちしております。
今後とも、宜しくお願いします。